35年ぶりの「歩きやすい京都」
割烹着にマスク姿の「錦のおばちゃん」は、そう言いながらちりめん山椒を包んでくれた。京都の台所として有名な錦市場(京都市中京区)。閑散とした…というほどでもなく、そぞろ歩く人の姿はあり、賑わっているようにも見える。しかし、確かに歩ける。
近年はインスタ映えのする商品を並べる商店も増え、普段ならば狭い通りを観光客が埋めつくし、ゆっくり買い物をするどころか「歩くのも大変」な錦市場。それが、いまは「すいすい歩ける」のである。
今や世界を襲う新型コロナウイルスの感染拡大の影響は観光都市・京都においても深刻である。オーバーツーリズムが問題となるほどの混雑に悩まされてきた人気の観光スポットや世界遺産をはじめとした神社仏閣にも人はまばら。もちろん、慢性的な行列と車内混雑で「並んでも乗れない。乗ったら降りられない」と有名だった市バスや市営地下鉄にも影響は出ている。京都市交通局の発表などでは、2月の、市バス・市営地下鉄の1日あたりの平均乗客数はおよそ5万5千人の減少ということである。
とにかく京都は、いまどこも空いているのだ。「こんなに歩きやすい京都ははじめて」。多くの人ははじめて目にする京都の異様な光景に驚く。しかし、昔を知っている人は口をそろえて、こう言う。
「こんなん、古都税のとき以来やわ」
古都税とは、かつて京都市の創設した地方税・古都保存協力税のことである。観光客の拝観に対して課税し、その徴収を寺社に担わせるという、この古都税を巡って京都市と京都の寺社が激しく対立。「古都税騒動」を巻き起こした。そして京都を代表する寺社の数々が抗議のために、1985年から86年にかけて3度にわたって拝観者に対して門戸を閉ざしたのである。
海外では「テンプル・ストライキ」とも報道されたというこの運動により、修学旅行生をはじめ、京都を訪れる観光客数が激減。人々は観光客の姿が消えた京都の街を目の当たりにすることになった。
それから35年。再び京都の街から観光客が消えた。しかし、令和の京都から観光客の姿を奪ったのは古都に暮らす人々同士の争いではなく、海の向こうからやってきた「疫病」だった。いま、日本を代表する観光都市・京都で何が起こっているのだろうか?
「人間よりサルの方が多いとか、久しぶり」
新型コロナウイルスの感染拡大を理由に中国が海外への団体旅行とパック旅行の販売を中止したのは1月27日。しかし、2月も中旬に入る頃には中国以外の国々においても渡航自粛や制限、そして「訪日忌避」の動きが広がる。京都のホテルや旅館においても、中国に限らず各国の予約客からのキャンセルが相次ぐことになった。そして、現れたのが数十年ぶりに人のいない京都である。
しかし、このことが逆に「京都が空いている!」「今こそ良い写真が撮れる」「これこそ本来の京都の姿」とSNSなどで話題となった。さらにはこの苦境を逆手にとり嵐山の5つの商店街が合同で「スイてます嵐山」キャンペーンを展開。「人間よりサルの方が多いとか、久しぶり」などのキャッチフレーズで、外国人観光客の急増に押されて近年は減少傾向にあった日本人観光客の呼び戻しを図った。
「今回ほど、ああ京都でよかった、と思ったことはないですね」
普段であれば数カ月も前から外国人客の予約で部屋が埋まっていくという京都の人気旅館のマネジャーはそう語る。今では、外国人客がキャンセルした分を当日や宿泊日直前に「ふらっと予約してくる」日本人客が埋めてくれているという状況だという。
近年の日本人観光客が「京都ばなれ」の傾向にあったといっても、その理由は日本人が京都に関心をなくしたからというわけではなかった。「機会さえあれば」と様子をうかがっていた潜在的な京都ファンが、「空いている京都」のうわさを聞きつけて京都へ帰ってきているのである。いつもなら予約の取れない人気の宿に泊まり、いつもなら撮れない静寂の景色を撮る。そんな彼らが京都観光の苦境にあってぎりぎりの生命線となっているのだ。
近年のインバウンドブームの中ですっかり外国人観光客向けに塗り替えられたと苦言を呈されることも多い京都だが、古都への憧れはまだまだ日本人の中にも生きていたということだろう。京都ブランドの底力である。
以下ソース先で
2020年03月09日 08時00分
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2003/09/news049.html
https://image.itmedia.co.jp/business/articles/2003/09/rh_kyotoshousitu01.jpg
割烹着にマスク姿の「錦のおばちゃん」は、そう言いながらちりめん山椒を包んでくれた。京都の台所として有名な錦市場(京都市中京区)。閑散とした…というほどでもなく、そぞろ歩く人の姿はあり、賑わっているようにも見える。しかし、確かに歩ける。
近年はインスタ映えのする商品を並べる商店も増え、普段ならば狭い通りを観光客が埋めつくし、ゆっくり買い物をするどころか「歩くのも大変」な錦市場。それが、いまは「すいすい歩ける」のである。
今や世界を襲う新型コロナウイルスの感染拡大の影響は観光都市・京都においても深刻である。オーバーツーリズムが問題となるほどの混雑に悩まされてきた人気の観光スポットや世界遺産をはじめとした神社仏閣にも人はまばら。もちろん、慢性的な行列と車内混雑で「並んでも乗れない。乗ったら降りられない」と有名だった市バスや市営地下鉄にも影響は出ている。京都市交通局の発表などでは、2月の、市バス・市営地下鉄の1日あたりの平均乗客数はおよそ5万5千人の減少ということである。
とにかく京都は、いまどこも空いているのだ。「こんなに歩きやすい京都ははじめて」。多くの人ははじめて目にする京都の異様な光景に驚く。しかし、昔を知っている人は口をそろえて、こう言う。
「こんなん、古都税のとき以来やわ」
古都税とは、かつて京都市の創設した地方税・古都保存協力税のことである。観光客の拝観に対して課税し、その徴収を寺社に担わせるという、この古都税を巡って京都市と京都の寺社が激しく対立。「古都税騒動」を巻き起こした。そして京都を代表する寺社の数々が抗議のために、1985年から86年にかけて3度にわたって拝観者に対して門戸を閉ざしたのである。
海外では「テンプル・ストライキ」とも報道されたというこの運動により、修学旅行生をはじめ、京都を訪れる観光客数が激減。人々は観光客の姿が消えた京都の街を目の当たりにすることになった。
それから35年。再び京都の街から観光客が消えた。しかし、令和の京都から観光客の姿を奪ったのは古都に暮らす人々同士の争いではなく、海の向こうからやってきた「疫病」だった。いま、日本を代表する観光都市・京都で何が起こっているのだろうか?
「人間よりサルの方が多いとか、久しぶり」
新型コロナウイルスの感染拡大を理由に中国が海外への団体旅行とパック旅行の販売を中止したのは1月27日。しかし、2月も中旬に入る頃には中国以外の国々においても渡航自粛や制限、そして「訪日忌避」の動きが広がる。京都のホテルや旅館においても、中国に限らず各国の予約客からのキャンセルが相次ぐことになった。そして、現れたのが数十年ぶりに人のいない京都である。
しかし、このことが逆に「京都が空いている!」「今こそ良い写真が撮れる」「これこそ本来の京都の姿」とSNSなどで話題となった。さらにはこの苦境を逆手にとり嵐山の5つの商店街が合同で「スイてます嵐山」キャンペーンを展開。「人間よりサルの方が多いとか、久しぶり」などのキャッチフレーズで、外国人観光客の急増に押されて近年は減少傾向にあった日本人観光客の呼び戻しを図った。
「今回ほど、ああ京都でよかった、と思ったことはないですね」
普段であれば数カ月も前から外国人客の予約で部屋が埋まっていくという京都の人気旅館のマネジャーはそう語る。今では、外国人客がキャンセルした分を当日や宿泊日直前に「ふらっと予約してくる」日本人客が埋めてくれているという状況だという。
近年の日本人観光客が「京都ばなれ」の傾向にあったといっても、その理由は日本人が京都に関心をなくしたからというわけではなかった。「機会さえあれば」と様子をうかがっていた潜在的な京都ファンが、「空いている京都」のうわさを聞きつけて京都へ帰ってきているのである。いつもなら予約の取れない人気の宿に泊まり、いつもなら撮れない静寂の景色を撮る。そんな彼らが京都観光の苦境にあってぎりぎりの生命線となっているのだ。
近年のインバウンドブームの中ですっかり外国人観光客向けに塗り替えられたと苦言を呈されることも多い京都だが、古都への憧れはまだまだ日本人の中にも生きていたということだろう。京都ブランドの底力である。
以下ソース先で
2020年03月09日 08時00分
https://www.itmedia.co.jp/business/articles/2003/09/news049.html
https://image.itmedia.co.jp/business/articles/2003/09/rh_kyotoshousitu01.jpg