2017年12月15日 10:59 発信地:ムランジェ/マラウイ
【12月15日 AFP】アフリカ南東部マラウイでは、吸血鬼と疑われた人が自警団に殺害される事件が相次いでいる。吸血鬼に襲われたと語るジャミヤ・バウレニ(Jamiya Bauleni)さん(40)さんは、最近の吸血鬼騒動の中心となっている同国南部のヌゴロンゴリワ(Ngolongoliwa)の村で、はだしの子どもを前に自らの体験を語った。
マラウイでは、魔術や吸血鬼といったものが広く信じられ、黒魔術を行っていると疑われた人物が暴徒らによって殺害されている。
子どもが1人いるシングルマザーのバウレニさんは、10月2日夜、チョロ(Thyolo)の自宅で襲撃者が彼女の血を吸ったと語った。「これは聞き伝えではありません」とバウレニさんが話し始めると、興味を持った村人らがよく話を聞こうとにじり寄ってきた。「私の血が吸われたのです」「屋根の隅に光が見えたのです。ベッドから立ち上がろうとしたけどだめで、左腕に何かが刺さったのを感じました」と左胸の近くを指し示した。
豆のシチューを売って生計をたてているバウレニさんは、意識を失う前、誰かがその場を立ち去るのが見えたと話した。
国連(UN)によると、最新の吸血鬼騒動はモザンビークで始まり、国境を超えてマラウイのムランジェ(Mulanje)とパロンベ(Phalombe)に広がった。警察によると、ムランジェでは少なくとも7人が追い詰められて殺害されている。
吸血鬼への一般の怒りが高まるに連れ、10月に国連職員と米平和部隊(ピースコープ、Peace Corps)のボランティアが一時的に同地域から引き揚げたが、現在は戻っている。
吸血鬼に襲われたといわれているフローレンス・カルンガ(Florence Kalunga)さん(27)は、自宅で夫の横で床についていたとき「火のような」光を見たと話す。「ドアが開く音がしました。指に針のようなものが刺さるのを感じたのです」
■騒ぎの根底にあるもの
過酷な貧困と劣悪な低水準の教育が常態になっている同国において、自警団の標的になるのは周囲より裕福な人が多い。
チョロでは9月30日に実業家オーランド・チャポンダ(Orlendo Chaponda)さんの自宅が約2000人の村人に襲撃された。村人の中にはおのや石を手にしていた人もいた。
チャポンダさんは外出しており、間一髪のところで攻撃を逃れた。「私が吸血鬼をかくまっていると彼らは言っていました」とチャポンダさん。「彼らに見つかっていたら殺されていたかもしれません」
5時間のこう着状態の後、チャポンダさんから通報を受けた警察が催涙ガスで暴徒を排除した。チャポンダさんは吸血鬼などいるはずはなく、金持ちを襲う口実に利用しているだけだと主張した。
■金持ち対貧乏人
マラウイ・カトリック大学(Catholic University of Malawi)の助講師アンソニー・ムトゥタ(Anthony Mtuta)さん(人類学)は、吸血鬼騒ぎの根幹には「経済的困難と不平等」があると指摘する。「金持ち対貧乏人ですよ。乏しい人たちは、金持ちは欲張りで貧乏人の血を吸っていると信じている」
マラウイは主として外国からの援助に頼っているが、一部の国民はその援助に疑いの目を向けている。「村人たちは、贈り物がただでもらえるはずがない、見返りに血を与えているのだろうと考えるのです」とムトゥタさんは語った。
マラウイでは集団暴力で少なくとも250人が逮捕された。隣国モザンビークでも同様の犯罪で40人が逮捕されている。吸血鬼現象について調査したムトゥタさんは、政府が現代の問題をどう扱うか学ばない限り暴力事件は再発すると警告する。
ムランジェの国営リクブラ(Likhubula)森林保護区の職員マクドナルド・コロコンベ(McDonald Kolokombe)さんによると、吸血鬼騒ぎで9月半ば以降、この地を訪れる観光客は激減したという。この地域の経済は観光業に依存しているため住民生活への影響は大きい。アマチュアツアーガイドのエリック・ヨハネ(Eric Yohane)さんは「吸血鬼の悪いうわさのせいで私たちは商売上がったりです」と話す。「あんなの大うそですよ」
吸血鬼のうわさがある地域では輸血用血液を集める献血事業も実施できない状態だ。アーサー・ピーター・ムタリカ(Arthur Peter Mutharika)大統領も介入を余儀なくされ、政府は状況を掌握していると明言した。「吸血鬼が存在する証拠などない。この地域の不安定化を狙ったうそだ」と同大統領。「このようなうわさを広める者は法により裁かれる」 (c)AFP/Felix MPONDA