駅も道路もビルの屋上も見渡す限り灰色の世界…。
富士山が噴火し、首都圏に火山灰が降り注いだ場合、東京の都市機能はどうなってしまうのか。
そんな不安に応えるべく、富士山噴火時の降灰対策について政府が年内にも初めての本格的検討を始める。
これまでの検討は首都圏周辺で2〜10センチとの降灰量推定にとどまり、具体策の検討が遅れていた。
近年、1月の草津白(しら)根(ね)山(さん)(群馬、長野県境)や平成26年の御嶽山
(長野、岐阜県境)など噴火が相次いでおり、対策整備を急ぐ。(社会部 市岡豊大)

■電力も交通もストップ?

 20XX年6月のある朝、東京都内のマンションに住む30代の男性会社員が目を覚ますと、
妙に外が薄暗いことに気付いた。カーテンを開けると一面、灰色の世界。
空は薄暗く、白っぽい粉が降り注いでいる。
慌ててテレビの電源を入れると、
ニュース番組が富士山が300年ぶりに大規模噴火を起こしたことを伝えていた。

 富士山から100キロ以上も離れているのに…。
出勤しようと外へ出ると、すでに道路には2センチほどの灰が積もっている。
マンションの前の国道では、タイヤが空転して動けなくなった車があちこちで立ち往生している。

 小雨が降り始めたが、仕方なく駅まで歩いた。湿った灰に足を取られつつ、ようやくたどり着くと、
駅の構内は真っ暗。案内板には「送電線のショートが多発しており、全線で運転見合わせ」の文字。
あきらめて家に帰ると、今度は水道管から水が出ない。

目に強い痛みを感じるが、灰で汚れた顔を洗うこともできない。
そのとき、「…降灰は数日間は続くとみられます」とニュース番組。一体、東京はどうなってしまうのか−。

■灰の粒が細かいと深刻

 これはあくまでシミュレーションだが、現段階で政府の具体的な被害想定や対策は、
富士山周辺への防災対応にとどまっている。

 降灰に関して政府がまとめたたたき台の被害想定資料は、降灰量に応じ、

(1)1センチまでで一部の交通網に遅延や停止
(2)10センチまでで社会・経済活動に障害発生
(3)30センチ以上で同活動がほぼ不能−とする。

 まず懸念されるのは電力網の寸断。降灰1センチ超で送配電網の性能が低下し、
大規模停電のリスクが増大する。東京電力によると、
火力発電所ではガスタービン機の吸気口フィルターに灰が詰まるなどして発電力が低下するほか、
灰の上に雨が降ると送電設備がショートする恐れがあるという。

 東電はフィルター交換や要員確保で対応する構え。
だが、政府の想定では自動車は降灰5ミリで故障が起き始め、
10センチ以上で走行できず交通網が機能不全に陥るとしている。

 首都高速道路は約2年前に対策を検討し始めたばかり。
現状では清掃車両をフル稼働させて除灰するしかないという。
道路だけでなく、ジェットエンジンが使用できないため航空機は大量に欠航し、
東海道新幹線への影響も考えられる。

さらに灰の粒の大きさが細かい場合には深刻な事態も起こり得る。
コンピューターなどの精密機器や非常用ディーゼル発電機の吸気口フィルターを目詰まりさせ、
思わぬ影響が出る恐れもある。

■降灰の範囲は房総半島まで

 富士山の噴火は江戸時代中期の宝永4(1707)年の「宝永噴火」が最後とされる。
噴煙は高さ1万メートル以上、噴出物は約7億立方メートルに及び、
火山灰は上空の偏西風に乗って東へ流れ、房総半島にまで達したと推定される。
周辺自治体でつくる富士山火山防災協議会は平成16年、同規模の噴火が起きた場合、
約1250万人が健康被害を訴え、経済被害は最大約2兆5千億円に上ると算出した。

 約300年間、噴火していない富士山。政府はたたき台を基に、
桜島による降灰の影響が大きい鹿児島市を例に具体的な被害想定と対策を検討する。
防災を担う内閣府の担当者は「都市部での事例が少なく、まずは何が起こるのかを整理したい」と話す。

 都市防災に詳しい日本自治体危機管理学会の市川宏雄会長は
「噴火の影響範囲が大きすぎて容易に議論が進まないのが実状。
地震火山は近年活発化しており、いずれ起こると考えて備えるべきだ」としている。

画像:宝永噴火と同規模の降灰予想
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産経ニュース
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