8〜9日にカナダで開いた主要国首脳会議(シャルルボワ・サミット)では、各国政府と共に日本政府がネットで盛んに発信し、ツイッター外交に参戦した。
写真や映像のアングルや構図を工夫し、政府の立場を効果的に広める狙いだ。
今回のサミットの最大の焦点となったのは、閉幕時に採択する「コミュニケ」と呼ばれる首脳宣言。
貿易政策をめぐってトランプ米大統領と、他の6カ国首脳の主張が対立し、とりまとめが難航した。
サミット会場で首脳同士が予定外に話し合う場面があり、宣言の策定の過程で各国首脳がどのような役割を演じたかに関心が集まった。
協議は日本時間の9日午後10時20分から11時まで約40分間。
その時の写真をドイツ政府が同10日未明にネットで配信すると、一気に拡散した。
日本側では安倍首相に同行した西村康稔官房副長官がツイッターでこの写真を投稿。
「安倍首相が『G7で結束して自由で公正な貿易の推進を発信すべきだ』と議論を主導です」と書き込んだ。
その後、安倍首相は自身のツイッターに新しい写真を配信した。
こちらは日本政府の職員が撮影したものだ。
ドイツ発の写真と同じ構図だが、印象は異なる。
しゃべるトランプ氏の横で、安倍首相が両手を机に置いて前かがみになり、じっとトランプ氏を見つめている。
この写真のメルケル氏はトランプ氏と視線を合わせず、下を向いている。安倍首相がトランプ氏と他国の間で調整役を担っているようにみえる。
米国はトランプ氏に各国首脳が熱心に耳を傾けているようにみえる写真、マクロン仏大統領のツイッターではマクロン氏がトランプ氏を説得しているような写真、をそれぞれ流した。
同じ場面でも撮った角度や構図で主役はがらりと変わる。
サミットという晴れの舞台での自国首脳の活躍を伝える宣伝戦ともいえる。
政府筋によると、メルケル氏はこの場面で、首脳宣言の文言の細かい表現をめぐってトランプ氏に詰め寄った。
両者の間にいた安倍首相が「自由で公正な貿易システムが重要だとのメッセージさえ発信できればいいんだ」と話すと、トランプ氏は「シンゾーがまとめてくれ」と語ったという。
かつて各国は、映画やテレビのニュースなどを使って政権の宣伝をして、国民の支持獲得に腐心した。
現在もそうしたメディアの重要性は変わらないが、ネットの登場でより効果的になった。
いまは安倍首相や西村副長官のような政治や外交の当事者が直接、世間に訴える。
一目で伝わる写真を素早く配信し、短い動画を編集して流せばさらに効果的だ。
今回は、首相官邸や安倍首相のツイッターでサミットの状況を伝える約1分の動画も配信した。
こうした動きに拍車をかけたのはトランプ氏の登場だ。
米大統領就任後、様々な政策をまずツイッターで直接、世間につぶやいている。
メディアを介さない発信をすることで情報戦の主導権を握ることができる。
米国内だけの話ではなく、サミットのような各国が関わる話なら、他国も参戦しなければ、米国に都合がいい情報発信に負けてしまうかもしれない。
現場の交渉だけでなく、ネットでの宣伝戦も外交で大きな意味を持ち始めた。
写真:https://www.nikkei.com/content/pic/20180611/96958A9F889DE1E3E4E2EBE6E0E2E3E3E2E4E0E2E3EA8282EAE2E2E2-DSXMZO3163309011062018PP8002-PB1-3.jpg
日本経済新聞 2018/6/11 18:30
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31609420R10C18A6PP8000/?n_cid=DSTPCS001