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『人は見た目が9割』という新書がベストセラーになったのは、2005年のこと。このヒットを境に、この書籍が本来、
伝えている内容ではなく、人を見た目で判断して何が悪いのかと平然と口にする人が世の中に増えた。
そんな世間の雰囲気によって大いに割を食っている「見た目が良くない」中年男性たちの嘆きを、ライターの宮添優氏がレポートする。

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「痴漢対策として、安全ピンを持ち歩くべき」

ネット上でこんなにも過激な議論が巻き起こるほどになったのは、確かに痴漢などの性犯罪者が多く存在している背景がある。

しかしその一方で、痴漢や性犯罪について過敏すぎる人たちから、あらぬ疑惑をかけられ、日常生活を送ることさえ
ままならなくなった人々がいることについては、あまり知られていないのではないか…。

千代田区内の公園に現れたのは、肥満体型にしわくちゃのシャツ、スラックス姿の山崎義之さん(仮名・50代)。
一見するとうだつの上がらないダメサラリーマン然とした出で立ちだが、れっきとした大手新聞社の社員。
早稲田大学法学部を卒業し入社したあとは、九州や関西で記者として活躍し、40代で東京本社の営業局に移動した。

「営業といっても飛び込みではなく、既存の取引先とやりとりをするだけ。動かなくなって一気に太ってしまったんですが、
ストレスもそれなりにあり、頭も一気に薄くなった。目は昔から悪く、分厚いメガネをかけています。この時期は汗も大変、
タオルが絞れるほどですからね」(山崎さん)

お気の毒ではあるが、その風貌はお世辞にも「かっこいい」「清潔」とはいえない。鼻息荒く巨体を揺らし、
常に汗を拭きとる仕草を見せる山崎さんは、電車で隣りあいたくないタイプだ。しかし当の本人も、自分の「気持ち悪さ」は
十分に理解していると肩を落とす。

「俺みたいな汗っかきの百貫デブ、そしてハゲ。気持ち悪いに決まってますよ。でも、このために痴漢に間違われたり、
女性から蹴りを入れられたり、男性からも肘打ちをされたりする。朝の電車には怖くて乗れなくなり、社内でも盗撮してるんじゃないか、
若い女性社員をいやらしい目で見ているのではないかと噂を立てられて。その反動からか、食べたり飲んだりが前以上に
やめられなくなってしまった」(山崎さん)

実は山崎さん、関西赴任時代に結婚し、今では一男一女のパパでもある。東京・大田区のタワーマンションに住んで、
日曜になれば、愛車のアウディで家族でレジャーを楽しむ"イケてるパパ"だ。ファッションにも興味があり、大学時代にはストリート系雑誌の
ファッションスナップページも数度掲載されたことがある。しかし今では、おしゃれを楽しみたくとも合うサイズの服がなくもっぱらジャージ姿。
シャツとスラックス姿では、小物をどんなにオシャレにしても焼け石に水で「単なるキモいデブ」(山崎さん)にしかならないのが実情だという。

「地下鉄に乗っていたところ、いきなり後ろからキャー!と悲鳴が聞こえて。私の汗で濡れた腕に触れた女性が叫んだんですね。
その女性の彼氏は、私のことを怒鳴り散らして、次の駅で降ろされて駅員呼ばれて…。痩せてカツラでもつければいいのか…。
というかこんなにも見た目でないがしろにされなくてはならないのかと」(山崎さん)

神奈川県内の物流コンサル会社勤務の大橋学さん(仮名・40代)も、痴漢や不審者に間違われた経験から、すっかり生きる気力をなくしてしまった一人。

「二十代で頭頂部が薄くなりはじめ、内臓の病気で肌色も悪く、目つきも悪いんです。この前は、営業先の会社のエントランスで30分座って待っていたところ、
警備員が五〜六人やってきて、身分証明書を見せろ、ここにいる理由を言えと詰め寄られました」(大橋さん)

何度も通った会社であったが、新入りの受付嬢が初見の大橋さんを不審に思い、警備員に通報していたのだという。同じように、公園で休憩をしたり、
弁当を食べているだけで、警察官に職務質問を受けたり不審者扱いを受けた。中でも辛かったのは、愛娘の学校行事に参加したときのこと。