>  大混乱に附け入り不逞鮮人が兇暴を働いたと言ふは、内地人に取りては忍ぶ事の出来ない不祥事
> で、出来得べくんば此際斯かる不逞の徒は、悉く全滅させたいものと、さういふ敵慨心を起すも
> 無理はない、出来得べくんば人道の為め、悉く虐殺して了ひたいと言ふのが宿願であつた、けれ
> ども治安維持の警察のある以上之をどうする事も出来なかつた。
>  ところが止むなく蛮勇を揮つて虐殺せねばならないやうなつた、そは一旦拘禁した不逞鮮人をば
> 警察署の類焼にかゝると倶に、悉く之を解放したと言ふ一事である、警察側の処置は止むを得ず
> とするも、民衆に取りては実に由々しき大事である、なせならば、斯かる不逞鮮人を解放するは、
> 恰も猛獣を雑踏中へ追い放つた様なもの、最早警察は信頼するに足らずと憤慨してをる折柄、流言
> 蜚語は盛んに行はれ、八十八箇所から一時に起る火の手も、殆ど不逞団の所為であり、多数の焼死
> 者を出し、親子兄弟夫婦等互ひに離れ/\となり、生死の程も不明なる大悲惨事を見るも、畢竟す
> るに不逞鮮人の所為であると、一概に斯う妄信して了ふたは、此時此場合、あながち無理とも思は
> れないであらう。