※続きです

■買い替えだけでは一時的

ここからは、個人・家庭向けパソコン市場の回復の要因を分析してみたい。
1つは、多くのユーザーがパソコンの買い替えのタイミングに入りはじめたことだ。
一般に個人・家庭向けパソコンの買い替えサイクルは5年程度と言われている。
では、約5年前に何が起こっていたのか?

Windows XPの延長サポート終了を前に、国内のパソコン出荷台数が1500万台前後に跳ね上がったのが2010年。
MM総研の調べでは、同年にはパソコン市場全体として1527万1000台と過去最高を記録。
さらに、その翌年は個人系ルートでは過去最高となる772万7000台を出荷し、2007年から2011年まで5年連続で過去最高の出荷台数を更新するという伸びをみせていた。
このタイミングで購入したユーザーが買い替えに走ったとしても不思議ではない。

2つ目は、買い替え需要を喚起するユニークなパソコンが各社から出はじめたことだろう。
2in1型や軽量モバイル、狭額縁ディスプレーを搭載したオールインワンデスクトップなどが、ユーザーの選択肢を広げている。

BCNの調べでも、2016年3月には、ノートパソコン全体の10.0%を占めていた1.1kg未満の軽量モバイルは、2017年3月の集計では11.7%と構成比を高めている。
以前であればノートパソコンは、液晶のサイズが15型程度のオールインワンタイプの構成比が圧倒的だったことを考えると、新たなカテゴリーのパソコンの販売が増えていることを裏付けている。
ユニークなパソコンといえば業界関係者の間からは、「ゲーミングPCに対する需要が着実に高まっている」との声も聞かれており、これも個人・家庭向けパソコン需要の回復に貢献しているようだ。

3つ目は、パソコンの新たな需要が増えている点だ。
実は働き方改革やテレワークの浸透に伴って、ビジネスパーソンがパソコンを購入する例が増えていること、小学校でのプログラミング教育の導入を控えて、縮小傾向にあった子どもや学生のパソコン購入が回復しつつあること――を指摘する声もある。
加えて、以前ならタブレットを仕事用に購入していたビジネスパーソンが、「エクセルやワードをしっかり使いたい」ということで2in1型や低価格なパソコンを購入しはじめている。

4つ目は、円安による為替影響が、最終価格の上昇に働くパソコンにおいて、その影響が限定的だったこと。
実際、BCNの調査でも平均単価はあまり上昇していない。これが需要を下支えすることにつながっている。

ここまで要因を分析してきたが、正直なところ決定的ともいえる要因が見当たらない。
MM総研の調べでは、2014年には、1491万7000台だった国内パソコン市場は、2016年実績で1008万5000台。
市場規模は3分の2程度まで縮小したままであり、若干の回復だけでは、確かに復活の手応えを感じるところにまではいかないというのは事実だ。
MM総研でも、2017年度の国内パソコン市場の出荷台数は1020万5000台を予測。前年比1.2%増と、5年ぶりのプラス成長を予測するものの完全な回復基調に乗ったとはいえない。

2020年のWindows 7の延長サポート終了に向けて、このまま穏やかな回復基調が続くとの見方が強い。
だが、OSの入れ替えというある意味従来と同様の市場喚起ではなく、業界の工夫や努力による新市場の開拓が求められる。
その開拓こそが持続的な力強い成長につながるはずだ。

大河原克行 1965年、東京都出身。IT業界の専門紙である「週刊BCN(ビジネスコンピュータニュース)」の編集長を務め、2001年10月からフリーランスジャーナリストとして独立。
BCN記者、編集長時代を通じて、約20年にわたり、IT産業を中心に幅広く取材、執筆活動を続ける。

※以上です