DVD・Blu-rayディスクやHDD・SDカードなど、次世代の記録媒体の普及により、磁気テープに信号を記録するVHSなどの磁気メディアはすっかり前時代の遺物となりました。
全盛期に映像が記録されたVHSは今でも至るところに存在しているはずですが、磁気テープに記録された情報は15年〜20年で劣化して消えてしまうことが示唆されており、現存する「磁気メディアの危機」が訪れようとしています。

ビデオテープには音と映像を記録できる磁気テープが使われているのですが、年数とともに劣化するため、やがて磁気記録が失われてしまいます。
National Media Laboratoryの研究によると、磁気テープに記録された情報の寿命は「15年〜20年」であると示唆されているのですが、多くのビデオテープは1980年代〜1990年代に使われていたため、現存するほとんどすべての磁気テープから記録された情報が失われようとしていることになります。

一部ではこの状態が「磁気メディアの危機」と呼ばれているのですが、貴重な情報をアーカイブすることを目的とした非営利団体「XFR Collective(トランスファー・コレクティブ)」では、一部の有志の手でVHSの情報をデジタル化してアーカイブする活動を行っています。
XFR Collectiveのメアリー・キッドさんと数人と同僚は、毎週月曜日の夜に危機に面しているVHSのデータを、オシロスコープ・ベクトルスコープ・波形モニターなどを使って高品質でデジタル化するという作業を行っているとのこと。

これらの作業はいずれも専門的スキルを要するものですが、キッドさんたちはボランティアとして本職の空き時間を使ってVHSの保全作業を行っています。
誰かに強制されているわけではないため、チームの空気は和やかだそうですが、そこには「VHSの寿命」という見えない締め切りが迫っているわけです。

アメリカ映画テレビ技術者協会(SMPTE)のディレクターであるハワード・ルーク氏は、「一度磁気記録されたテープは、時間の経過で劣化し過ぎると二度と読み込めなくなります」と話しています。
ルーク氏はどこかで眠ったまま寿命を迎えつつあるVHSは数十億本に達すると予想しています。
しかし、過去に大切な思い出を記録したVHSが、押し入れに眠ったまま劣化し続けていることを知る
人は少なく、人知れず貴重な情報が失われる可能性もあります。

一部ではVHSのデータをデジタル変換するサービスも提供されていますが、無料のものもあれば、高額な費用を要するものもあるそうです。
これはVHSのデジタル化がかなり厄介な作業であるためで、キッドさんらのように磁気データを高品質でデジタル化するには、テープに記録された情報を最初から最後まで再生して見ている必要があるとのこと。
途中で問題が起きれば解決策を求めて手が止まることもあり、これまでに非営利のデジタルアーカイブに保管されたVHSの本数は155本で、合計すると67時間にとどまっているとのこと。

キッドさんらがデジタル化しているVHSの多くは、数十年前に記録された誰かの結婚式などの個人的な内容が多く、デジタルアーカイブで公開されることを承諾している人から送られたものとのこと。
すでに亡くなっている人がVHSに映っている場合もあるそうですが、作業中に「古い友だちのような親しみを感じる」ということです。

しかし、ボランティアのチームは「これらの親密で個人的な歴史は、誰かがやらなければ消えていくでしょう。
だから私たちはこの作業に専念するのです」と話しています。
VHSのデジタル化サービス以外にも、ビデオテープのデータをデジタル化する方法はいくつも存在するため、どこかに大切なビデオテープを眠らせている人は、記録された情報が寿命を迎える前にデジタル化しておくのが良さそうです。

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http://gigazine.net/news/20170607-archivist-saving-vhs/