【いまも飛ぶ大戦機】「ゼロと空戦してはならない」 米軍が恐れた零戦の空戦性能とは?(1/2ページ) - 産経ニュース
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 「抜群の空戦性能で米英軍機を圧倒」、「連合軍を震撼させたゼロ・ファイター」など、現代においても零戦の奮戦は、伝説の域にまで昇華している。だが当時の日本海軍には、戦闘を映像記録する発想も機材もなかったため、零戦の空戦性能を鮮明に捉えた映像は現存しない。残されている記録映像は、米軍戦闘機のガン・カメラ(機銃発射に連動するムービー撮影)がとらえた、炎に包まれ撃墜される悲惨な零戦の姿ばかりである。

太平洋戦争初期から中期にかけて、日米両海軍の主力艦上戦闘機だった零戦21型(手前)とグラマンF4Fワイルドキャット(Photo:Atsushi "Fred" Fujimori)

 昭和15年夏、中国大陸での初陣から、太平洋戦争の口火を切った真珠湾攻撃、そして昭和17年春までの南方攻略作戦において、零戦は日本軍の先兵として大活躍したのはまぎれもない事実である。そのため対峙した米軍は「ゼロと空戦してはならない」、「ゼロを追って上昇してはならない」、「ゼロと雷雲に遭遇した際には、回避行動を認める」など、緊急通達を出したほどであった。ちなみに日米開戦当時の零戦は、最初の量産型となった主翼が長い21型で、塗装も通称“現用飴色”と呼ばれるやや褐色がかった灰色であった。「零戦伝説」を築いたのは、一般的なイメージとなっている濃緑色の機体ではなく、実は飴色の零戦だったのだ。


 これまで零戦の卓越した空戦性能は、搭乗員の手記などでしか知る術がなかった。しかし唯一の飛行可能な“飴色21型”を保有するテキサス・フライング・レジェンド博物館の協力で、なんと好敵手グラマンF4Fワイルドキャットとの模擬空戦が実現。両機の機体各部にそれぞれ5台ずつアクション・カメラを装着、さらに地上撮影と空中撮影の計12台のカメラによって、零戦の空戦性能をあますことなく鮮明に捉えることに成功した。

 主役の零戦21型は、ニューギニア諸島で回収した残骸をもとに、カナダとアメリカの協同作業で再生された新造機。また敵役を務めるF4Fワイルドキャット(撮影機はゼネラルモーターズ社がライセンス生産した後期型FM-2)も、徹底的なオーバーホールを終えたばかりで、両機ともに限界まで機動可能な最良のコンディションを維持している。

敵機を風防正面に捉えた! 旋回戦なら零戦は、いとも簡単にワイルドキャットの背後に回り込める(Photo:Peacs Inc.)

 もちろん両機の操縦桿を握るのは、全米屈指の熟練大戦機パイロットたちだ。しかも撮影地は、米ノースダコタ州の私有飛行場とその空域で実施したため、機動や高度が制限されることなく、迫真の空戦が再現された。果たして零戦の空戦性能は……当時のパイロットでさえ見たことのないその空戦映像は、とても文章では表現できないので、興味のある方はDVDでご確認いただきたい。(文・藤森篤)