ニセ電話詐欺で、バイク便が現金を受け取りに現れる手口が後を絶たない。詐欺グループが詐取金を回収するために会社を設立したとみて、警視庁が摘発するケースも相次ぐ。
背景にはバイク便事業が届け出制で手軽に始めることができ、チェックが行き届かない実情がある。 (藤川大樹、清水祐樹)

東京都足立区の閑静な住宅街。十四日に代表者の男(35)が詐欺罪で起訴されたバイク便会社「T&D」は、その一角に事務所を構えていた。
起訴内容は、ニセ電話詐欺の被害者の八十代女性=八王子市=から計四百万円を受け取ったとされる。

先月末にT&Dの事務所を訪ねると、マンションのインターホンはエラーとなり、応答はない。周囲に看板も見当たらなかった。
警視庁によると、同社は一月三十日に設立され、関東運輸局に営業の届け出をした数日後から詐取金の回収を開始。三カ月余で計二十件、六千万円の詐取金を運んだという。

捜査関係者によると、代表者の男は「配送業務の一環でやっただけで、詐欺の被害金とは知らなかった」との趣旨の供述をした。詐欺グループの共犯者も逮捕されてはいないが、
東京地検は「配送伝票の控えがないなど正規のバイク便としての実態を備えていない。『受け子』の組織であることを隠すため、詐欺グループが設立したとしか考えられない」と起訴に踏み切った。

バイク便を使った手口は東京と神奈川に集中している。警視庁によると、今年一〜四月、都内で前年同期比十五件増の三十六件発生し、被害総額は計二億九千二百万円に上った。
神奈川県警によると、同県内では二十件、被害総額は計九千万円近くだった。

多発する理由として、路上で簡単に現金の受け渡しができる上、摘発されても正規業務を装って言い逃れしやすい点があると警視庁はみている。
幹部によると、同庁が三月以降に摘発した三社は、法令で義務付けられたアルコール検知器を備えていないなど正規業者としては不自然だった。しかし、社員らが最終的に嫌疑不十分で不起訴となったケースもあり、立証の難しさも浮かんでいる。

◆「審査必要な許可制に」 警視庁幹部が指摘

「悪質業者を排除するためには、現在の『届け出制』という参入方法を見直すことが必要ではないか」。バイク便を悪用したニセ電話詐欺事件が後を絶たないことに対し、警視庁幹部は指摘する。
バイク便事業を始める場合、各都道府県の運輸支局に届け出る必要があるが、届け出内容に不備がなければ受理されるのが当たり前。関東運輸局の担当者は「形式的にそろっていれば拒絶できない」。

これに対し、トラックを使う運送業のように「許可制」の場合は、審査が必要になる。運行管理体制や資金計画などについて厳しく確認されるため、担当者は「そこで排除される会社が出てくる」と説明する。

警視庁が押収したバイクや携帯電話
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バイク便が使われたニセ電話詐欺の件数
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配信 2017年6月22日 夕刊
東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201706/CK2017062202000255.html