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新型エレベーター「MULTI」の駆動機構(ティッセンクルップの資料から)

リニアモーターを使ってビルの中を上下だけでなく、左右にも移動できる次世代エレベーターが近く登場しそうだ。独ティッセンクルップが開発した「マルティ(MULTI)」というケーブル無しのエレベーターがそれ。オランダを本拠地とする欧州有数の不動産デベロッパー、OVGリアルエステートがベルリンに建設する高層ビル「イーストサイドタワー・ベルリン」に初導入すると22日に発表した。

ティッセンクルップによれば、160年以上前にエレベーターが発明されて以来、この分野で最大の革命だとしている。導入するビルの高さに制限がないうえ、これまでのエレベーターに比べて占有面積が小さく、人を乗せた箱(キャビン)が縦にも横にも移動できることから、ビル建築のデザインにも影響を与えると見ている。

新型エレベーターにはキャビンを吊るすケーブルがなく、壁に取り付けられたガイドに沿ってリニアモーターで動く。しかも、縦方向だけでなく、それと直交する形で横方向にもガイド付きのシャフトが伸び、上下左右、自在に移動できる。

開発のポイントは縦移動から横移動、またはその逆の移動を実現するための機構システム。進行方向を90度変える場合、キャビンが縦横のガイドの交点に来ると一旦停止し、円形になったガイドのユニット部分とキャビン側の駆動機構がそのまま90度回転する仕掛けとなっている。

ビル内に複数路線のバスの巡回ルートのように多数のシャフトが縦横に設置され、同じシャフト内を複数のキャビンが同時に動く。エレベーターに乗る人が行きたい階の場所を指定すると、ソフトウエアがほかのキャビンの混雑状況を勘案しながら最短移動ルートを計算し、乗せて行ってくれる。

ほかにも利点はいくつかあり、通常のエレベーターに比べて輸送能力が50%高く、ピーク電力を60%削減できるという。特にメリットが出やすいのが高層ビル。ビルが高くなればなるほどエレベーターの占める面積が大きくなるためで、その占有面積は最大で40%にもなるという。

それに対し、マルティはシャフト自体が小さく、シャフトの本数も少なくできるため、ビルの面積を最大で25%有効活用できるとしている。ただ、普及の上で最大の課題とみられるのが設置コスト。通常のエレベーターの5倍という話もある。

鉄鋼・エンジニアリング大手であるティッセンクルップはエレベーター部門を持ち、同部門の年間売上高は75億ユーロ(2016年)。14年にマルティの構想を発表し、シュトゥットガルトの南、バーデン・ヴュルテンベルク州ロットヴァイルのR&Dセンターに高さ246メートルの新型エレベーター専用タワーを整備した。ここでは12本のテスト用シャフトを備え、毎秒18メートルの最大移動速度でマルティの試験を行っている。

【ティッセンクルップによるMULTIの説明動画】
https://youtu.be/E7QlAsxJP-g

(2017/6/25 09:00)