http://toyokeizai.net/articles/-/178049

The New York Times 2017年06月28日
「米FDA承認、がん新薬「キイトルーダ」の実力 がんの種類ではなく、遺伝子異変に着目 | The New York Times -


「キイトルーダ」を服用したことで、がんが消えたというエイドリアン・スキナー氏(写真:Whitten Sabbatini/The New York Times)
「キイトルーダ」とはどのような新薬なのか

がんの新薬「キイトルーダ」 (一般名ペンブロリズマブ)の臨床試験に参加した86人の患者の間に、共通点はほとんどなかった。腫瘍ができた臓器はすい臓だったり前立腺だったり子宮だったり骨だったりとさまざまだった。中には非常に珍しいタイプのがんを患っている女性もいた。標準治療が確立されていないがんで、彼女は身辺整理をするよう言われていた。

もちろん、共通項がまったくないわけではない。全員があらゆる標準治療でも効果が得られなかった進行がんを抱えていた。全員がDNAの損傷を修復する能力を妨げるような遺伝子変異の持ち主だった。キイトルーダは免疫系が腫瘍を攻撃するのを助けるタイプの新薬だったのだ。

この臨床試験の結果は『サイエンス』誌で6月8日に発表された。著しい効果が確認されたことから、米国食品医薬品局(FDA)は特定の遺伝子の異常のせいでがんにかかった患者向けに、早期にこの薬を承認した。

特定の遺伝子の変異を持つ複数の種類の腫瘍に対して使われる抗がん剤が承認されたのはキイトルーダが初めて。年に数万人のがん患者がこの薬によって救われるかもしれない。

「本当にすばらしい」と語るのは、ニューヨークにあるスローン・ケタリング記念がんセンターの医長、ホセ・バセルガだ。同センターでは、キイトルーダの臨床試験を指揮したルイス・ディアス博士も働いている。

臨床試験ではキイトルーダの投与を受けた患者のうち、66人で腫瘍がかなり小さくなり、そのまま安定した。18人では腫瘍が消え、再発もしていない。

対照群はいない。つまり著しく説得力のあるはっきりした結果を出さなければ認められないということだ。2013年に始まったこの臨床試験の費用を出したのは複数の慈善団体で、製薬会社は薬を提供しただけ。試験は今も続いている。

http://toyokeizai.net/articles/-/178049?page=2

製造元である製薬大手のメルクはすでに、一部の進行性の肺がんや悪性黒色腫(メラノーマ)、膀胱がんの治療薬としてキイトルーダの発売を開始している。薬価は高く、1年当たりの費用は15万6000ドル(約1730万円)だ。

キイトルーダが標的とする遺伝子変異の有無を調べる検査もあり、費用は300〜600ドルだ。

キイトルーダの効果が期待できるタイプの遺伝子変異を持っているのは、全がん患者のうちたった4%にすぎない。それでも米国だけで年に6万人に達すると研究チームは推測している。

一筋縄ではいかない免疫薬開発

これまで臨床の現場では、がんを発生部位で分類することが広く行われてきた。たとえば肺がんだとか、脳腫瘍というように。一方で、重要なのはがんを引き起こす遺伝子変異だ、との指摘はずっと以前からあった。専門家は当初、遺伝子変異に狙いを定めて薬を作れば、体のどこにできたがんでも治療できるようになると考えていた。

だが、がんはそう単純なものではないと、論文の著者の1人でジョンズ・ホプキンズ大学ブルームバーグ・キンメル研究所のドルー・パードル所長は言う。

たとえばメラノーマの半数の患者でみられる遺伝子変異は、ほかのがんではめったにみられないことが明らかになった。また、同じ変異が大腸がん患者の10%でみられることが判明したものの、メラノーマ患者に効く薬は他の部位のがんの患者には効かなかった。

「果てしない夢だった」と、パードルはため息をついた。

キイトルーダに関する研究は、それまでとは別のアプローチから生まれた。免疫系はがん細胞を異物だと認識し、破壊しようとする。だが、がんは細胞表面の目印となるタンパク質を隠して、免疫細胞から「見えなく 」してしまうことで攻撃をかわす。

キイトルーダは「PD-1ブロッカー」と呼ばれる新しいタイプの免疫治療薬だ。がん細胞の隠れみのを暴き、免疫系が発見・破壊できるようにする。

(続きはソースで)