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2017/7/5 20:33

 財務省が5日発表した2016年度の国の決算によると、税収は前年度比で8千億円減り55兆4686億円となった。7年ぶりのマイナスで、当初見込んでいた税収からは2.1兆円下振れした。「経済成長による税収増」はアベノミクスの柱だが、経済好循環の戦略に影を落としかねない。今回の税収の大幅減が今後の予算編成の制約になる可能性も残った。


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 国の決算全体で見ると、歳出の使い残しにあたる予備費や国債の利払い費などの不用額が1兆5千億円余りあった。1兆円の赤字国債の減額をした結果、最終的には差し引きで3743億円の余り(剰余金)が出た。剰余金は2分の1以上は国債の償還にあてる。残りは今後の補正予算の財源になり得る。

 財務省は税収の大幅減は「特殊要因が大きい」と説明する。もともと16年度の税収は、15年12月の予算編成の段階で57.6兆円と見込んでいた。今年1月に入って1.7兆円、今回さらに0.4兆円と2段階での下振れが続く状況に、「好循環の見立てがあまりにもバラ色過ぎたのではないか」との声が出ている。

 想定を大きく下回ったのが法人税で、見込みから1兆円規模で下回った。日本の企業の稼ぐ構図が大きく変化していることが理由とみられる。税収算定上は景気は悪くない、企業業績も落ちていない、それでも税収は伸びないといういびつな状況が露呈している。

 例えば日本企業が海外で稼ぎ、海外子会社から配当金を得た場合、海外当局との二重課税を防ぐために配当額の大部分を非課税にしている。配当金の95%を課税する基準となる課税所得に含めないで済むため、大幅に支払う法人税が減る。

 国税庁によると15年度の海外子会社からの配当金などの益金不算入額は前年度比5%増の6兆1747億円。11年度から57%も増加し、足元では上場企業の経常益の伸びを上回るペースで増加している。海外で稼ぐ傾向が続けば、業績が改善して収益を上げても税収に反映されにくい構造が続く可能性がある。

 慶応大の土居丈朗教授は「景気回復局面が長く続き、黒字企業が次々に出る状況ではない。大きな税収の伸びは期待できない」と指摘する。一方、野村証券の西川昌宏チーフ財政アナリストは「成長率や特殊要因を勘案すると、17年度は57兆円台前半まで伸びる可能性がある」と指摘する。

 税収減は、安倍政権の財政運営にも影響を与える。税収が減ると、同じ歳出規模を維持するには増税や赤字国債の増発でしかまかなえない。強気な見立てをしない限り、予算を組むうえでの税収の土台が下がり、歳出を増やす自由度が減る。だが現状では社会保障や公共事業、農業などの各分野で歳出増圧力が強まる可能性の方が高い。

 安倍政権は税収が想定より上回ることによって得た剰余金を使って、補正予算などを通じた財政出動もしてきた。だが16年度は剰余金も3743億円にとどまり、大規模な財政出動に踏み込むには国債増発のリスクがこれまで以上にちらつく。