■ 鎮痛剤依存の広がりを食い止めることができるか?

2016年4月、ミュージシャンのプリンスが突然の死を遂げ、その後の調査で死因は鎮痛剤の過剰投与であることがわかりました。
New York Timesでは、プリンスが腰の痛みを和らげるために人知れず鎮痛剤の依存症に陥っていたと伝えています。

プリンスに限らず、米国では今鎮痛剤依存症患者の増加が問題になっています。
国立薬物乱用研究所によれば、プリンスが服用していた薬・フェンタニルを含むオピオイドという種類の薬の過剰投与事例は1999年の4倍以上になっているそうです(オピオイドについては後に詳述します)。
同研究所では、何らかの慢性痛がある人は米国だけで1億人に上ると見ており、社会全体から「薬に頼らない痛みの治療法」が求められています。

そんな中、薬を使わずに慢性痛を軽減するデバイスが生まれています。
engadgetによれば、Quellというデバイスは、ふくらはぎの裏から電気刺激を送ることで体の中で鎮痛作用を持つ物質を分泌させます。
ひざ用サポーターのような見た目で装着も簡単、価格は249ドル(約2万8000円)で米Amazonなどで処方せんなしで購入できます。

■ けがや病気からくる慢性的な痛みを解消するのが目的のデバイス

電気刺激なんて痛いんじゃ?と心配になるかもですね。
Quellのオフィシャルサイトでは「ちくちくと心地良い感覚だが、強い刺激」だと書かれていてちょっと不安になりますが、刺激の強度はスマートフォンアプリから調節可能です。

また装着する場所はひざ下ですが、背中や腰、関節などの痛みをブロックするとされています。
オフィシャルサイトには、Quellには痛みに対して効果があったという経験談がいくつか紹介されています。

動画:
https://youtu.be/QhE8I43aArA
https://youtu.be/oVvZ3iHq1eU

上の動画に登場しているValerieさんはもともとサッカープレイヤーで、若いときから右ひざを何回も手術してきました。
手術した部位は最近まで痛み、Quellを使うまでは毎日抗炎症薬を飲む必要があったそうです。
でもQuellを使い始めて2、3日で効果を感じ始め、2週間ほどで痛みがまったくなくなり、今では抗炎症薬も要らなくなったのだとか。

Quellの他の利用者の声を見ても、使っている人の痛みの原因はさまざまで、Valerieさんのように運動から来る怪我や事故の後遺症の場合もあれば、糖尿病や帯状疱疹といった病気が原因のこともあります。
多くの人を痛みから解放しているようです。

■ 痛みが和らぐ仕組み

でも「電気刺激で痛みが和らぐ」って、どういうことなんでしょうか?
Quellを開発したNeuroMetrixの社長兼CEOのShai N. Gozaniさんがengadgetに語っているところによれば、電気刺激によって体の中にあるオピオイドが活性化されるとのこと。

オピオイド=麻薬みたいな感じなのかな、と思っていたのですが、イコールではありません。
日本ペインクリニック学会では「中枢神経や末梢神経に存在する特異的受容体(オピオイド受容体)への結合を介してモルヒネに類似する作用を持つ物質の総称」と長々しく定義していますが、要は体の細胞のある部分とくっついて鎮痛効果を発揮する物質をまとめて指す言葉がオピオイドということです。
その中には植物性のものから合成・半合成のもの、体内で分泌されるものもあるそうです。

Gozaniさんは博士研究員だった1996年、体の中のオピオイドを使って痛みを沈静化させるデバイスの構想を練り始め、2011年から実際の開発に着手しました。
そして医師の処方せんが必要な医療器具の段階を経て、2015年6月、晴れて食品医薬品局(FDA)からの認可も受け、処方せんなしで買えるデバイスとしてQuellは世に出ました。

http://www.gizmodo.jp/images/2017/07/170713_quell1.jpg
http://www.gizmodo.jp/2017/07/170719_quell.html

※続きます