人間の手を模擬したロボットハンドが進化している。
従来、指の中に収まるサイズのモーターでは人間と同じ力を出すことが難しかったが、東京工業大学や東京大学などが人工筋肉やバネを使った新しい駆動機構を利用し、人の手と同じ5本指のロボットハンドを開発した。

人の手と構造が同じであれば、人の道具をそのまま使えるため、用途が広がる。
5本指ハンドの研究がロボットの可能性を広げている。

【ワイヤが「腱」】
5本指ハンドの研究では人工筋肉ワイヤを「腱」として活用する機構が注目を集めている。
そこには人体が筋肉で腱を引き関節を曲げる機構を取り入れている。

東京工業大学の鈴森康一教授と東芝は、細い人工筋肉アクチュエーターを使った5本指のハンドを開発した。
ハンドには約40本の人工筋肉を配置し、空気圧で細径チューブを伸縮させ人工筋肉を駆動させる。

鈴森教授は「人工筋肉は細く、軽く、力を出せる」とメリットを強調する。
軽量化が腕の先端にハンドを付け動かしやすくした。

指の曲げ伸ばしに加え、指を左右に振ることも可能。
この動きにより対象物の形に合わせて指を沿わせられるため、しっかりと物をつかめるようになる。

鈴森教授は「駆動精度よりも対象になじんで力を加える機能が重要。
人間の手は動きの精密さよりも、適応性の高さが作業を豊かにしている」と指摘する。

【強度に自信】
一方、東京大学の稲葉雅幸教授と牧野将吾大学院生は腱の駆動と衝撃に強いバネを組み合わせた5本指ハンドを開発した。
前腕にワイヤの巻き取り機構を埋め込み、ワイヤを引っ張ることで指を曲げる。

各指にはバネが組み込まれており、指を伸ばす力が働く。
「曲げ」と「伸ばし」に別々の駆動機構が不要になる。
ハンドの重量は300グラムで人間の手よりも軽く、ハンドの大きさや厚みは人間の手とほぼ同等だ。

東大が開発したヒト型ロボット「腱悟郎」にハンドを搭載し、腕立て伏せや鉄棒のぶら下がりができることを実証した。
牧野大学院生は「鉄棒にぶら下がって腱悟郎の体重56キログラムを十分支えられる」とハンドの強度に胸を張る。
指には力センサーを搭載し、スポンジのような柔らかい対象物も適切につかめる。

単純に物をつかむだけならロボットに5本の指が必要かどうかは意見が分かれる。
ロボットハンドで物をつかむだけなら、3本指で十分と考えられているからだ。
指の数が少なければ制御が簡単になり、製造コストも抑えられる。

【幅広い作業】
だが人の手はタイピングから工具を使った力仕事、野球のピッチングなど、一つの手で多様な作業を実現している。
繊細な作業から力強い動きまで、一つのハンドで実現するには人体の動きをまねることが有効だ。
鈴森教授は「ただ物をつかむだけでなく、人間のように幅広い作業ができるハンドを実現したい」と力を込める。

写真:東工大と東芝の5本指ハンド、手の骨格に人工筋肉を配置している
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https://www.nikkan.co.jp/articles/view/00436460?twinews=20170721