囲碁、将棋などさまざまな分野で人間を凌駕し始めた人工知能(AI)だが、とうとう人間のアタマの中まで見通すことが可能になった。
多くの仕事で人間の域に届くのはまだ先になるとみられているが、こちらの考えが分かってしまうようでは、人間の勝ち目はますます薄くなっていく。

■ 究極の嘘発見器

「究極の嘘発見器」とも呼べる技術を開発したのは、京都大の神谷之康教授と国際電気通信基礎技術研究所(ATR、京都府精華町)のチームだ。
チームは、脳と機械を結びつける「ブレーン・マシン・インターフェース」の研究に長年取り組んできた。

脳の活動状態を計測し、人が何を考えているか知ることができれば、手を使わずに自動車を運転するなどSFの世界が実現する。
必要としている人たちにとっては夢の技術に違いないが、考えていることが何でも分かると、いろいろ困ったことも出てくる。

脳の中をのぞく技術としては、古くは「嘘発見器」があった。
質問項目に答えているときの心拍数や発汗量などの変化から、嘘の確率を割り出すというもので、20世紀初めの欧米で使われることもあったが、間接的過ぎて、事件の裁判などに適用しようにも証拠能力に乏しかった。

そうこうするうちに、より直接的に脳の活動を画像化できる機能的磁気共鳴画像装置(fMRI)が登場した。
血中のヘモグロビンが酸素との結びつきによって磁気特性が変化することを利用した装置だ。
神谷教授らが使ったのが、このfMRIである。

まず2005年、人の視線の先にあるものを脳血流の画像から推測することに成功し、米科学誌ネイチャー・ニューロサイエンスの電子版で発表した。
4人の被験者に縦、横、斜めと角度が異なる8種類の直線を見せ、大脳で視覚をつかさどる場所の脳血流をパターン解析した。
その上で、2種類の直線が組み合わさって格子状になった図を見せながら、一方の直線に注意を向けた状態で脳内を撮影してパターン照合すると、約8割の確率で注意を向けた方の直線を当てることができた。

■ 米誌の科学貢献50人に選ばれる

神谷教授はこの年、「神経画像、人間の脳における視覚と主題のデコーディング(解読)の主導的研究者」として、米科学誌のサイエンティフィック・アメリカンから科学技術に貢献した50人の1人に選ばれている。
しかし、「この程度なら安心。嘘も見破られない」と、ほとんどの人は高をくくっていたのではないか。

その後も研究は着実に進展する。
08年には、小さなマス目を縦横10個ずつ並べて表現した四角形や十字、アルファベットなど11種類の画像を用意し、被験者が画像を見てから4秒後に、ほぼ原画に近い画像をコンピューターで再現するプログラムも開発した。
実験は単純な画像だったが、神谷教授は当時「夢を読み取って画像化することも、荒唐無稽なことではない」と話していた。

その言葉通りに13年、実際に夢の中身を解読することに成功し、米科学誌サイエンスに掲載される。
被験者を、夢を見ることが多いレム睡眠に入った直後に起こして、夢の内容を聞き取る調査を数百回繰り返し、脳の活動と夢の内容をデータベース化。
その上で、レム睡眠時の夢の内容を当てる実験を行ったところ、本、部屋、道、ビル、男性、女性など15項目について7割以上の確率で的中させた。

■ パターン認識はお手のもの

そして今年5月22日の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズ電子版に掲載された成果では、各界で話題となっているAIの「深層学習」が威力を発揮した。
囲碁や将棋が強くなっただけでなく、深層学習は犬と猫を見分けるなど画像パターン解析でも成果を出している。
脳の活動パターンも例外ではなかった。

アタマの中を解読するこれまでの技術は、AIでも深層学習ではない「機械学習」モデルを使っており、トレーニングした少数の物体カテゴリーしか対象にできなかった。
そこで、人間の脳神経を模倣した階層的な構造で画像の特徴を理解するAIの深層学習に目を付けたというわけだ。

チームはまず脳の視覚野という場所で階層的に処理されている視覚処理と深層学習が似ていることを明らかにした。
その上で、ランダムに選択した1000個の物体カテゴリーについて学習させ、人間が見ていたり、想像していたりする物体カテゴリーを正しく予測(検索)できるかを検証。

http://www.sankei.com/premium/news/170722/prm1707220010-n1.html

※続きます