※続きです

2番目によく出てくる意見は、「設置工事が必要な家電は売りにくいのではないか?」というものだ、確かに冷蔵庫のように家に届いたらコンセントにつなぐだけでよい家電とは少々事情が違う。
洗濯機のようにそもそも家のなかに設置場所がつくられていて、蛇口や配水管にそのままつなげるようにできているわけでもない。
そもそも、新しい工事をしないと設置できないから、購入のハードルが高いのではないかという意見だ。

でも、考えてみるとクーラーも同じくらい設置工事は面倒だが、90%以上の家庭に普及している。
後発の家電で同様の工事が必要な温水洗浄便座だって、食洗機以上に売れている。

実は、ここに一つヒントがある。
クーラーも温水洗浄便座も消費者は購入前に一度どこか別の場所で体験したはずだ。

それで便利さがわかって「いつか買いたいな」という話になる。
ところが食洗機の場合、自分が別の場所で便利さを体験する機会はほとんどない。

ママ友の家に集まったときに自分が食器洗い担当になって、そこの家にある食洗機を使うことで「便利ね!」と気づくなどという経験は意外とレアなケースであろう。
海外旅行の際にコンドミニアムに泊まって、そこで食洗機の便利さを経験することでユーザーになるという人もいるかもしれないが、それも人数的には多くはないだろう(ちなみに私はこのルートでユーザーになった)。

■ 普及の妨げ要因、その最有力候補

さて普及が進まない3番目の理由として「日本人らしい仏教の教えや、道徳観の問題があるのではないのか?」という有力な意見も研修では出た。
自分が出した汚れものは、自分の手で洗うべきだという考えが強いため、そこをさぼると何か悪いことをしているように日本人が感じてしまうという話である。

最近、この説に対する有力な反論が発見された。
実は日本全体では食洗機の普及率は28%といったが、地域差がある。

そして日本で一番食洗機が多く普及している都道府県は、仏教文化のお膝元である奈良県で、その普及率は50%を超えるのだ。
だから仏教道徳説はそれほど正しいとはいえないだろう。

実は食洗機には、使ってみないとわからないことが多い。
普及が進まない理由の4番目に、「日本のキッチンは狭いので設置する場所がない」という理由がある。

普及の妨げ要因としては一番有力である。
ただ、誤解もある。設置場所がないように思えるキッチンでも、食洗機を設置してしまえば支障なく家事を行えるものだ。

私が最初に食洗機を購入した際には、置く場所がなくてシンクの一部に食洗機が飛び出したかたちで設置された。
大きめの食洗機を購入したからだ。

それまでシンクの半分は、汚れた皿の仮置き場だった。
そして食洗機を設置した場所には、洗った食器を置く水切りかごが置かれていた。

それらの場所が食洗機に変わっただけで、食洗機が置かれたことでキッチンが狭くなったために家事が滞るということは実は起きなかった。
ただ、そのような体験を語る知人がいなければ、「うちのキッチンは狭いから食洗機を設置すると料理をする場所がなくなってしまう」みたいな考えで購入に踏み切れない人は、結構多いようである。
 
ちなみに食洗機の最大のデメリットを紹介しておくと、意外と音がうるさいことだ。
だから本当は一番いいのは深夜にまとめて洗うことである。

ところがキッチンの狭さを理由に小さい食洗機を購入すると、あまり量がはいらないために一日3回稼働させなくてはならなくなり、いつもうるさい状況になってしまう。
小さい食洗機を購入した人は、それで懲りて食洗機をやめてしまうケースもあるらしい。

さて、このように整理をしていくと、食洗機が日本でだけはなかなか普及しない理由が見えてくるのだが、個々に考えればそれぞれ対策のある話ばかりである。
それなのになぜ食洗機業界が50年間、この問題を乗り越えられないのか? 
そのことこそが、私にとっては一番謎なのである。

※以上です