安倍晋三首相が衆参の予算委員会での閉会中審査で、学校法人「加計(かけ)学園」の獣医学部新設計画を知ったのは学園が事業者に決まった今年1月20日と説明し、波紋を広げている。首相は学園の加計孝太郎理事長を「腹心の友」と認める仲のため、業者による供応などを禁じた「大臣規範」への抵触を恐れたのではないかとの指摘が出ている。学部新設を申請した自治体にも疑問を示す声がある。 (清水俊介、安藤美由紀)

 大臣規範は、閣僚や副大臣らの政治的中立性を確保するため、大規模な政治資金パーティーの自粛などを定める。罰則はない。「関係業者」との接触では、供応接待や便宜供与を受けることで「国民の疑惑を招くような行為」を禁じる。

 首相は加計氏と三十年来の友人。第二次安倍内閣発足後も会食などを重ね「先方にごちそうしてもらうこともある」と答弁した。

 首相は国家戦略特区諮問会議の議長で、特区や事業者を認定する責任者。獣医学部新設の事業者として応募した加計氏は「関係業者」に当たる可能性がある。

 首相が加計氏と最後に会ったのは昨年十二月二十四日。事業者が加計学園に決まった今年一月二十日に初めて学園の計画を知ったと答弁した。その前は知らなかったとすれば、過去の会食は関係業者からの供応に当たらないと考えたかもしれない。参院予算委では、日本維新の会の浅田均氏が「大臣規範に抵触するから(以前から計画を知っていたと)認めないのか」と追及した。

 菅義偉(すがよしひで)官房長官は今月二十八日の記者会見で「大臣規範は通常の交際まで禁止していない」と、首相と加計氏の会食は大臣規範違反ではないと強調した。

 岩井奉信(ともあき)日本大教授(政治学)は「古い友達だが、加計氏はやはり利害関係者で、首相は決定権者。大臣規範に抵触する可能性が高い」と指摘。大臣規範に関し「パーティーも平然と行われ空文化している感がある」と再確認を求めた。

 閉会中審査のために内閣府が用意した安倍首相の答弁書を本紙は入手したが、そこには「一月二十日」の文言は書かれていない。誰がどのような判断で「一月二十日」を答弁に加えたのだろうか。

 国家戦略特区による獣医学部は形式上、新設したい事業者を公募で選ぶやり方を取っていた。愛媛県今治市の申請でも加計学園が前提ではないという建前だが、今年一月の公募に応じたのは加計学園だけだった。

 申請から公募までの一年半、獣医学部を取り上げた特区の会議は十回以上あったが、議事要旨や配布資料に加計学園の名は出てこない。首相が出席する諮問会議で初めて登場するのが、加計学園が事業者に選ばれた一月二十日だった。

 政府関係者によると、どの時点で加計学園の名前が登場するかは、内閣府が国会質問に備えて以前から調べており、首相側にも伝えていた可能性があるという。支持率が下落する中、以前のような強弁は通じない。野党に「いつ」と迫られた首相が、疑念を払拭(ふっしょく)するため、窮余の策として「一月二十日」で予防線を張ろうとした見方もできる。

 首相答弁と国家戦略特区資料との矛盾はない。しかし、加戸守行前愛媛県知事が閉会中審査で「十二年間、加計ありきでやってきた」と語ったように、今治市と加計学園が、ともに獣医学部新設を目指していたのは周知の事実だったはずだ。

 〇七年から今治市が国に申請していた構造改革特区の提案書には、事業主体として「加計学園」と明記されていたこともある。市関係者は「首相が知らないなんてありえない。身の潔白を強調しようとするあまり、かえって問題をこじらせている。やましいことがないなら堂々と答弁してほしかった」と話す。 (中沢誠)

http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2017073190071840.html
http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/images/2017073199071840.jpg