全国には人気作の撮影場所が観光地化した例もあり、多くの名作の舞台となってきた京都市以外の市町もロケ誘致に注目。京丹波町は昨夏、堤真一さんや綾瀬はるかさんらが出演した映画「本能寺ホテル」(今年1月公開)のロケ誘致に成功し、静かな町は多くの俳優陣やスタッフでわき返った。町は「映画ファンの聖地に」と夢を膨らませている。
「爆発でも炎上でも、何でも大丈夫です」。昨年6月、ロケ誘致を担当する同町商工観光課の原沢恒さん(47)が、ロケハンに来た「本能寺ホテル」のスタッフに猛アピールした。
最大の売りは、東映や松竹などの制作会社が拠点を構える京都市内から、車で約1時間という交通の便。さらに、爆発などのシーンに適した広大な土地を提供できることが、初の映画ロケを実現させる鍵になった。
転機は15年。府から「映画会社がロケ地を探している」と打診があった。映画関係者を招くと、「京都からこれだけ近くて、自由度の高い場所はない」と予想以上の好評を得た。同課の山森英二課長(55)は「田舎で何もないことが逆に武器になった」と振り返る。
「本能寺ホテル」の撮影は昨年7月に行われた。約2週間かけ、京都市から本能寺のセットを移築。俳優陣やエキストラなど約100人が集結し、2日間にわたって寺を燃やすクライマックスシーンが撮られた。撮影で大型クレーンが必要になると町職員が奔走して調達。制作スタッフは「急な要望にも柔軟に対応してくれた」と評価する。
行政がロケ誘致に力を入れる主な目的は、鳥インフルの風評被害で傷ついた町のイメージアップだ。町民は映画の舞台となることに誇りを感じている。
撮影地近くに住む男性(66)は「これまでは町外の人に『鳥インフルの町』と言っていた。これからは『映画の町』で伝わるようになれば」。区長の村山滋郎さん(67)も「名作の撮影地になれば町のイメージも良くなる」と期待する。
誘致が軌道に乗って今後も撮影が予定されており、住民らは特産の黒大豆などを使った「ロケ弁」の提供に乗り出した。昨年10月、農業組合法人が運営する調理施設が完成。今月の時代劇映画の撮影では55食を提供し、同法人理事の谷山正さん(72)は「また『京丹波で撮影したい』と思ってもらえたら」と話す。
映画のエンドロールには撮影地として「京丹波町」と表示される。山森課長は「多くの作品に町の名前を出して、住民を元気づけたい」と意気込む。(小沢亮介)
http://yomiuri.co.jp/national/20170730-OYT1T50029.html
「本能寺ホテル」のクライマックスシーンの撮影風景=京丹波町ロケーションオフィス提供
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