埼玉県防災ヘリコプターの出動・収容件数
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埼玉県が全国に先駆けて決めた県防災ヘリコプターによる山岳遭難救助の有料化が議論を呼んでいる。3月に成立し、来年1月1日に施行される改正条例は「受益者負担」を明確に打ち出すことで無謀な登山の抑止を狙うが、
登山客らを迎える地元関係者からは「まずは遭難させない工夫をすべきだ」などと反発の声も上がる。運用に当たっては多くの課題が残されているとの指摘もある。

改正条例は、埼玉県内の山岳で遭難し、県防災ヘリの救助を受けた登山者などに手数料を求める。改正案では、手数料は燃料費を基に算出、おおむね5万円程度(1時間当たり)と想定された。現在は県が、実際の運用規則の検討に入っている。
改正案の検討は、平成22年7月に秩父市の山中で起きた県防災ヘリの墜落が契機となった。事故は遭難者の救助活動中に発生、乗員5人が死亡した。

改正案作成に深く関わった自民党県議団の田村琢実政調会長は、「危険が潜む山に挑むのは自己責任の側面が大きい。
遭難して救助されたのなら受益者負担が基本だ」と指摘。登山者の中には、立ち入り禁止区域に入って事故に遭うなど、モラルやマナーが問われるケースもあるといい、「有料化によって無謀な登山の抑止につながる」と力を込める。

有料化は登山計画書の提出や山岳保険加入を促す狙いもあるという。

一方、反論もある。

共産党県議団の村岡正嗣幹事長は県内の山岳遭難の原因は「道迷い」が多いと説明。「まずは、案内板や標識の設置などを進めることが実態に即した遭難防止策だ」と主張する。

登山客を迎える地元関係者からは、複雑な思いも漏れる。秩父山岳連盟の清水武司会長は「有料化というが、まずは登山道の整備を含め、秩父の山に来てくれた登山者を遭難させないように工夫するのが、受け入れる側の責任ではないのか」と憤る。

登山道の一部では、木の階段が朽ち果てていたり、岩場に付けられた滑り止めの鎖が更新時期を迎えたりしているという。「仮に、ヘリが県境付近で遭難者を見つけた場合、救出場所の特定などで現場の混乱も予想される。
救助されたのが、他県なら無料だが、埼玉県内だから有料といわれたら、救助された側も困惑する。納得は得られるのか」(清水氏)

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防災ヘリの有料化をめぐってはこれまで、他県でも議論されてきた。だが、課題が多いなどとして話はまとまっておらず、埼玉県の取り組みに対する注目度は高い。
長野県も有料化を検討した過去を持つが、「山岳救助は複数人を助けなければいけない事態も発生する。そういった場合、長野では消防と県警のヘリの連携が欠かせないが、一方だけが有料となれば不公平感が生じることも考えられた」と同県の担当者。

同県防災ヘリの山岳救助の出動件数は平成28年は66件に上っているが、「(仮に有料化されれば)滞納者の対応を含めて、徴収業務が相当大変になることなども予想された」(担当者)といい、多くの課題があったことをうかがわせる。
山梨県でも今年4月、有料化を検討するかどうかについて議論されたが、「課題が多い」などとして話は進まなかったという。

「有料化で本当に救助の必要な人が要請を躊躇(ちゅうちょ)するといった問題が生じてはいけない。埼玉県の取り組みなどを通じ『有料化は無謀な登山の抑止になるか』といった実効性を注意深く見極めていく必要がある」と山梨県の担当者は話す。

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専門家はどうみるのか。

静岡大学教育学部の村越真教授(山岳リスクマネジメント)はこう語る。

「リスクの伴う登山は本来、自己責任の下で行うべきだが、山岳救助の現場では安易な救助要請も散見される。山岳救助における防災ヘリの有料化は『登山者の負うべき責任』を考える一つの材料になり得る。
有料化を機に、登山者が自己の安全をどう守るかを考えてほしい。ただ、山岳事故には不可抗力が原因で起きるものがあるのも事実だ。有料化だけでなく、山岳事故、山岳遭難を防ぐための啓発活動を同時に行っていくことも非常に重要といえる」

山岳遭難に詳しい関西大学名誉教授の青山千彰氏(危機情報論)は、有料化に懸念を抱いている。


配信 2017.7.30 16:00更新
産経ニュース
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