2017.8.13 13:00
 世界各国で、政治権力などに都合の良いネット投稿が自動投稿プログラムによって行われている実態が、英オックスフォード大インターネット研究所(OII)が行った調査で明らかになった。「フェイクニュース」ならぬ「フェイク世論」だ。ロボットが何食わぬ顔をして社会に溶け込むというのはSFでよくある設定だが、すでにネット社会ではそれが到来している。日本も無縁ではない。21世紀の新たな情報戦が始まっている。

 OIIは、過去約2年にわたってロシア、米国、中国、台湾、ドイツ、ブラジル、ウクライナ、ポーランド、カナダの9カ国でのSNS上における世論操作などのやりとりを分析。6月に発表した調査結果で、ロボット転じて「ボット」と呼ばれる記事作成プログラムが暗躍する実態を白日の下にさらした。

 ■政権を守る

 ロシア版では、デジタルプロパガンダはプーチン大統領のリーダーシップを国内の政治的挑戦者から守ることと、ロシア人の関心を西側への敵対心に向かせることに力が注がれていたとしている。ボットに加えて、トロール(荒らし)と呼ばれるひたすら書き込みをする人間も使っているようだという。

 ボットがどの程度活躍しているかを定量化するため研究チームは、2014年2月から15年末までのツイッターへのロシアの政治に関する投稿を調べた。ちょうど、14年2月にはロシアによるウクライナ領クリミアへの侵攻、いわゆるクリミア危機があり、世論操作が活発化したとみられる時期である。分析対象は、130万にのぼるアカウントから投稿された1400万件。

 当初、ボットを見つけたり、一般の投稿とボットの投稿を区別したりできるのか心配だったそうだが、一見して、ロシアではボットが至る所にみられ、切り分けも簡単なことが分かったという。なぜなら多くのボットの投稿は、リツイート(他ユーザーのつぶやきの再投稿)だけだったり、写真のみだったり、ニュースヘッドラインだけだったりで、名前や自己紹介、写真、都市名など普通のアカウントにあるべきものが欠けていて、誰からも誰に対しても返信がなく、フォロワーもまずいないからだ。

 こうした指標に基づき、人工知能(AI)の機械学習プログラムで分類したところ、10以上のつぶやきをしたアカウントの実に約45%がボットだったという。

 また、米国版では2016年の大統領選挙も調べた。米国では、トランプ大統領がロシアから対立候補へのハッキングなどの支援を受けたとの疑惑が浮上している。

 米大統領選のツイートでは、16年11月1〜11日、投開票の8日を挟んだ11日の179万アカウントによる約1700万の投稿を分析した。分析には「ボットorノット」と呼ぶ機械学習プログラムを利用。アカウントのプロフィルデータや、最近のツイート履歴、つぶやきの内容、相手のハンドルネームに言及したかなどさまざまな特徴を利用して分類した。その結果、約10%に当たるアカウントがボットだった。

 また、ボットはコミュニティーの中で影響力も発揮していた。複数の人間にリツイートされたボットアカウントでは、平均で63回リツイートされ、40人の人間とつながりができていた。

 ■ネット利用の心構え

 米ワシントン・ポスト紙が昨年のリオデジャネイロ五輪でAIによる記事作成を導入するなどしており、ネット上で人間になりすますのはもうSFの話ではない。今後、ネットの隣人とどのように付き合っていったらいいのだろうか。

 SNSなどに詳しい鳥海不二夫・東大准教授によると、日本では宣伝用ブログなどへの誘導にボットが使われているが、直接、政治的メッセージのために効果的に使われたという話は聞いたことがないという。今のところ、SNS利用者の年齢層が低く、ネットの言論の影響が投票行動に必ずしも反映されていないなど、ネットでの政治活動の効果は低いためだ。もちろん平均年齢が上がるにつれ、ネットでの政治的プロパガンダが活発化する可能性は十分にある。ただ、ボットが活躍するようになっても、今の世の中とそれほど変わらないとみる。

 鳥海さんは、「フェイクニュース(偽情報)やデマを流すボットの存在は大きな問題だ」と話す。しかしボットによるSNS投稿自体は、誰かにしかできないなら問題だが誰でもでき、現在中心となっているビラまきなどよりもむしろ平等性は高いかもしれない。また、現在のネット社会がどうなっているかを意識していれば、たとえ見ている世論が作られたものであっても自衛はできるとする。

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http://www.sankei.com/smp/politics/news/170813/plt1708130005-s1.html