事務仕事の数値化例
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/images/PK2017081302100001_size0.jpg


ずばり、この仕事の時間は○分です−。トヨタ自動車系プレス部品メーカーの豊田鉄工(愛知県豊田市)が、得意先回りやお茶出しなど事務営業部門に約8000ある業務の負担を時間に換算し、これを下げることで残業時間の短縮につなげている。時間と成果が結び付きにくい事務系の職場を巡っては、あらかじめ定めた時間を働いたとみなす裁量労働制の導入が議論されているが、数値に基づいて働き方の無駄をなくす独自の改革として一石を投じそうだ。

「仕入れ先と打ち合わせ 30分×月4回」「メール確認 2分×1日25〜40通」「来客者へのお茶当番 30分×月5回」…。

人事や営業など部署ごとに作る一覧表に、仕事の一回当たりの所要時間と頻度をセットにした「原単位」が書き込まれている。社員は表を眺めながら勤務時間を予測し、翌月の計画を立てる。報告を受けた上司が、特定の部下に集中していると判断した仕事は部署内で分担するようになった。

トヨタ系で使う原単位のそもそもの意味は、部品一個の生産に要する材料費や人件費のこと。カイゼンの基本として、生産現場では、この原単位を下げることに心血を注ぐ。豊田鉄工は、仕事の負荷が見えにくい事務部門にも応用した。

きっかけは二〇〇八年秋のリーマン・ショック。受注が大きく落ち込んだのに事務職の残業はそのまま。残業時間が減った生産現場から「おかしい」と不満が出始めていた。

無駄を省こうと、二千人余の従業員のうち事務系の約六百人全員に十五分間隔の日報を求め、膨大な業務の時間と頻度の割り出しに取りかかった。当初は「仕事に差し支える」と反発もあったが、二年がかりで全体像を把握した。

社員は原単位を下げることを常に心掛け、一覧表は次々と更新されるように。会社の売上高はリーマン直後の三割増に伸びる一方、事務職社員の平均残業時間は二割ほど短縮された。社員からは「早く帰れることで仕事にメリハリも付く」との声が出ている。

今年六月には、定時退社日に残業するには事前に担当役員の承認を得る決まりを新たに設けた。

日本の企業は欧米と比べ、長時間労働の割に仕事の効率が悪いとの指摘もある。視察した他社からは例外なく「ここまでやるのは大変」との感想が漏れるが、宝田和彦社長は「業務の見える化は効率化の入り口。原単位を使った職場と収益のカイゼンを続けていく」と話している。

◆「見える化」は貴重

東京大大学院の川口大司教授(労働経済学)の話 事務職の仕事をここまで見える化した取り組みは貴重で、働き方改革の突破口になるかもしれない。長時間労働の是正では、なぜ、長時間になっているかというそもそもの情報が不足してきた。家計簿と同じで、業務の洗い出しで無駄も明確化される。ただ、ここまでの見える化には、相当の時間とコストがかかる点が一般化への課題だ。(鈴木龍司)

配信2017年8月13日 朝刊
中日新聞
http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2017081302000070.html