https://www.cnn.co.jp/m/fringe/35097400.html

(CNN) 周りの人の声は聞こえるが、話すことはできない。触られているのは感じるが、触り返すことはできない。目は見えるが、動くことはできず、まばたきすらできない。

これは、脳は機能しているが、完全まひ状態にあるロックト・イン(閉じ込め)症候群患者の生活だ。この病気は脳卒中、外傷性脳損傷、薬物の過剰摂取、循環器疾患、あるいはルーゲーリック病とも呼ばれる筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経系疾患が原因で発症する。

一般に完全なロックト・イン状態にある患者は、外界とのコミュニケーションは不可能と考えられていたが、最新の研究でそうではないことが示された。

ある科学者の国際チームが、非侵襲性(患者の生体を傷つけない)脳コンピューター・インターフェース(BCI)システムを使って、完全なロックト・イン状態にある患者とコミュニケーションを取っている。

学術誌PLOS Biologyで先ごろ発表された研究論文によると、研究者らは、患者らがイエスかノーで答える質問をされている間、このBCIシステムを使って患者の思考を解読した。

スイスのウィース・バイオ神経工学センターの研究者で、この最新の研究論文の主執筆者でもあるニールス・ビルバウマー氏は、この研究結果に驚きはなかったと語る。

ビルバウマー氏はこの新しいシステムについて、「現在、ある患者の家族が定期的に使用している」とし、「いくらか訓練すれば、人並みの知能を有する介護者なら誰でも使い方を理解できる」と付け加えた。

研究では、機能的な近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)により患者の脳内の血流と血中酸素濃度を測定し、さらに脳波記録(EEG)キャップで患者の脳の電気的活動を測定することにより、患者の思考を解読した。

「あなたはハッピーですか?」

この研究には、完全なロックト・イン状態にある68歳の女性、76歳の女性、61歳の男性、24歳の女性の4人の患者が参加した。


研究者らは数週間にわたり、このコミュニケーションシステムに接続された患者らに対し、「イエスかノー」で答える質問や正誤問題を繰り返し問い掛けた。

患者らが質問の答えについて考えると、研究者らは同システムの測定値の変化を分析し、患者が「イエスかノー」の答えについて考えているか否かを判断した。

答えがイエスの時とノーの時では、血中酸素濃度の変化により、患者の精神状態は異なっていた。しかしこのシステムでは、特定の文字や言葉を解読するには至らなかった。

研究者らはまず、患者らに「あなたはベルリンで生まれた」「あなたの夫の名前はヨアキムである」「パリはドイツの首都である」「パリはフランスの首都である」など、あらかじめ答えが分かっている質問や発言に回答するよう求めた。

その結果、患者の正答率は約70%だった。

研究者らは、患者らが質問への答え方に慣れてきたと判断すると、今度は「あなたはハッピーですか」など、あらかじめ答えが分からない自由回答の質問を繰り返した。

患者らはこの生活の質に関する質問に対し、繰り返し「イエス」と回答しており、彼らが人生に前向きな姿勢であることが示された。

この研究では、患者の家族から提供された情報を基に、あらかじめ答えが分かっている質問が200問以上、自由回答の質問が40問以上作成された。

ビルバウマー氏と同僚らは、2014年に近赤外線スペクトロスコピーのみを使って、1人の完全なロックト・イン状態にある患者とコミュニケーションを取り、その結果を米医学雑誌「Neurology」で発表した。ビルバウマー氏は、今回の新たな発見は約25年に及ぶ研究の成果だと語る。



次回「完全まひ患者と意思の疎通を、医療科学の挑戦<2> 『まばたき』と『脳の操作』」は8月15日公開

2017.08.14 Mon posted at 18:00 JST

脳は機能しているが、体は完全まひ状態にあるロックト・イン症候群患者の女性
https://www.cnn.co.jp/storage/2017/03/03/d84371e807284952bd65a08269acd225/t/320/180/d/locked-in-patients-communicate.jpg