「寂しいので一緒にご飯を食べて」「介護の悩みを聞いてほしい」…。1時間千円で「おっさん」を借りられるサービス「おっさんレンタル」で、福岡県で唯一活動しているルモルトン博多さん(49)=福岡市=の元には、さまざまな頼み事や悩みを抱えた老若男女がやってくる。インターネットを介して申し込みを受けると、見ず知らずの人に会い、要望に応えるのが仕事。「紆余(うよ)曲折の人生経験を伝える語り部」を自任するおっさんに会ってみた。

 おしゃれな帽子からのぞく白髪、落ち着いた声。ルモルトン博多さんの素顔は、福岡市で飲食店と不動産会社を経営する建築デザイナーだ。2012年に首都圏で始まり、ドラマの登場人物のモデルにもなった「レンタルされるおっさん」の一員になったのは「裸一貫になった自分がどれくらいの価値があるか試したくて」。始めて2年、お客さんは20〜60代の延べ250人に上る。7割は女性だが、男性も3割いる。

 ルモルトンさんは、お客さんが希望した場所にやってくる。カフェが多い。福岡市内なら交通費は取らないが、飲食した場合の料金はレンタル代に加え、お客さんが払う決まりなので「安いのを頼んじゃいますね」。レンタル料の一部は、貧しい子どもたちのために寄付している。

 貧困に苦しむ20代シングルマザー、不倫で悩む30代独身女性、親族と相続問題でもめている中年女性、仕事で天井が見えてきた40代男性…。重い悩みを打ち明けられることもある。「知らないおっさんだからこそ、話せるんでしょう」。秘密はもちろん守る。

 お客さんが本音を話してくれるよう、じっくりと耳を傾ける。脱サラし、20代で起業、離婚歴もある自身の経験を踏まえてアドバイスをする。心掛けているのは「お客さんが傷ついたとしても率直に思ったことを言う」こと。悩んでも、お客さん自身に結論を出してほしいからだ。

 ネットを介し、複数のおっさんをレンタルしたことがある福岡市の会社員女性(28)は「おっさんによってキャラクターが違うので自分との相性も人それぞれ」とした上で「ルモルトンさんは自分と全く違う視点から背中を押してくれる存在。おかげで、今の営業の仕事をやってみようと思えた」と話す。

 遠方から福岡に1人で旅行に来た観光客から「屋台に連れて行って」という依頼も多く受ける。ただ買い物に付き合ったり、月に1回、一緒に食事をしたりする地元のリピーターも少なくない。

 「千円で人の人生を変えよう、とか大それたことは思ってない。乾いた心に水を一滴差す、おっさんレンタルはそんな役割なんじゃないかな」

「イケてるおっさん」として活躍するルモルトン博多さん
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 ■「おっさんは感謝されたい」創設者

 おっさんレンタルは2012年、東京都のスタイリスト西本貴信さん(50)が始めた。現在、北海道から福岡県まで37〜69歳の約80人が在籍。代表の西本さんに、おっさんレンタルについて聞いた。

 −始めたきっかけは?

 「おっさんの存在が軽視され、煙たがられていると感じたこと。若い人とコミュニケーションを取れる世の中をつくり、地位を向上させたかった」

 −どういうおっさんを採用するのか。

 「僕が面接しますが、誠実で好感を持たれる人。若い人に嫌がられないよう、清潔感があり、いやらしくないのが最低条件。上から目線ではなく、傾聴がうまいこともポイント」

 −おっさんの志望動機は?

 「1時間千円なんでもうけにはならないけど、僕もですが、おっさんは『ありがとう』と言われることが不足しているから、人から感謝されたいのかも」

 −おっさん側の利点は?

 「人間的に成長したり、あか抜けたり。会社をリタイアした人も10人ほどいますが、週に数回、レンタルに出て行くのも健康的でいいですね」

 −利用に不安を持つ客も。

 「ほとんどの人があやしいと思っているでしょうね。僕の所に3回、苦情が来たら辞めてもらいます。今までの苦情は『遅刻が多い』とか『居眠りした』ですね」

 −人気の秘密は?

 「哀愁あるおっさんが、千円で一生懸命に、若い人を応援している姿が面白いんでしょう」


2017年08月16日 17時00分 西日本新聞
https://www.nishinippon.co.jp/nnp/national/article/351330/