https://mainichi.jp/articles/20170828/k00/00e/040/209000c#cxrecs_s
教職員の研修でLGBTへの理解を訴える井上鈴佳さん(左端)=奈良県橿原市で2017年8月24日、望月亮一撮影
関西の学校回り、自身の体験を包み隠さず語り、理解訴える
 性的少数者(LGBTなど)の子供たちを救いたい−−。元養護教員で自身がレズビアンと公表している井上鈴佳さん(27)=大阪府大東市=が、教育現場で児童生徒や教師にLGBTへの理解を訴え続けている。関西などの学校を回り、「教育現場を知っている当事者の私だからこそ、伝えられることがある」と自身の体験を包み隠さず語っている。
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 奈良県橿原市立耳成(みみなし)西小学校で今月24日、教職員約30人を対象に開いた研修会。井上さんは「性的少数者は国内で左利きの人と同じ割合」というデータを紹介し、LGBTを取り巻く現状を解説した。「いないのではなく、見えていないだけなのです」
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 2012年に大阪教育大を卒業し、府内の中高一貫校の保健室で養護教員として勤務。自身がレズビアンだと気付いたのは、ある生徒がきっかけだった。
 13年冬、保健室を度々訪れていた男子生徒から「男の人が好き」と打ち明けられた。LGBTという言葉も知らなかった井上さんは生徒の力になりたいと同性愛などについて調べるうちに気付いた。「これ自分のことだ」
 学生時代、男性と交際したことはあった。ただずっと違和感があり、長くは続かない。夢の中での交際相手はいつも女性だった。
 現行の学習指導要領では、思春期には「異性への関心が芽生え」(小学校体育)と記されている。井上さんは「異性を好きになることが正しいんだと固定観念ができてしまっていた」と振り返る。
 LGBTについて学ぶうちに、差別的な扱いを受けるなどして自殺率が高いことを知った。保健室に来ることさえできない子供を救いたい一心から、学校の枠にとらわれず広く活動したいと退職を決意した。15年に退職後、他の当事者の話を聴くなど独自に勉強を重ねた。
 昨秋から、小中高生対象の特別授業や教員向け研修などで講師を務めている。小学生には詳しい知識は教えず「身近にいることを知ってね」と呼びかけるなど年齢によって内容を変える。授業後は相談の時間を設け、複数の子供から「自分もそうでは」と悩みを打ち明けられたという。
 研修を受けた耳成西小の岩田由香教諭(41)は「考えが浅かったし、実際に行動が取れていなかったことに気が付いた。深く勉強しなければ」と語った。
 文部科学省は15年に性的少数者の児童生徒へのきめ細かな対応を求める通知を出した。井上さんは「性のあり方は多様性に満ちている。当事者が自己肯定感を持って生きるためには教育現場から変えていかないと」と力を込める。【芝村侑美】