沿岸漁師100人が提訴に踏み切ったのは2015年11月。大半が東日本大震災の津波で漁船や漁具を流失した零細漁民たちだ。借金をして漁を再開したものの、なりわい再生にはほど遠いという。
小型漁船で操業する大船渡市の漁師熊谷善之さん(58)の肩に倉庫や漁具のローン2900万円がのし掛かる。家族3人の生活費は月15万円。「とても手元に残るお金はない」
零細漁師の一年は春の引き網漁、夏と冬のかご漁と続くが、魚種が少なくなる秋は収入のすべが絶たれてしまう。通年で収入を得るため、小型漁船で操業可能な秋サケの固定式刺し網漁を認めてほしいと訴える。
漁師側は、個人の年間漁獲量の上限を10トンとする規制を自ら提案してまで固定式刺し網漁の許可を求めたが、県が考えを改めることはなかった。
県が許可に難色を示すのは、固定式刺し網漁が「育てる漁業」と相いれない漁法だからだ。
県水産振興課の担当者は「魚が泳ぐルートを選んで網を仕掛ける固定式刺し網漁では、サケを根こそぎ捕獲してしまう」と説明。網に掛かって死んだサケからはふ化用に採卵もできず、資源の先細りは目に見えているという。
16年の岩手県のサケ漁獲量は8000トン。北海道(8万トン)に次ぐ全国2位の漁獲量ながら、震災前の10年(1万7000トン)には遠く及ばない。加えて昨年8月の台風10号豪雨で、沿岸のふ化場は壊滅的損害を受けた。
サケは放流から捕獲まで4、5年かかるため「今は震災前の水準まで資源を増やすことが優先される時期」(県水産振興課)だ。
一方で県は、漁協などには免許制でサケ定置網漁を認可してきた。回遊してきたサケを捕獲し、採卵してふ化場で育成、放流するという一連のサイクルを漁業者自身が担っており「育てる漁業」に資するというのがその理由だ。
これにも原告漁師は「浜の有力者を守るための方便だ」と反発。「県のふ化放流事業の7割は税金で賄われており、納税者である零細漁師にもサケを取る権利はある」と主張する。
平行線をたどる両者の言い分。8日に証人尋問があり、漁師側と県側がそれぞれ専門家を立てて意見を述べる。
[サケ固定式刺し網漁訴訟]サケの固定式刺し網漁を禁止する岩手県の漁業調整規則は不当として、漁師100人が県に不許可処分の取り消しなどを求め提訴。原告は14年9月〜15年1月、3回にわたって許可を申請したが、県はいずれも不許可とした。
http://www.kahoku.co.jp/tohokunews/201709/20170908_33003.html
2017年09月08日金曜日