https://www.cnn.co.jp/m/fringe/35106873.html

(CNN) 老化した細胞を取り除くことで、加齢に伴うさまざまな病気を治療できるとする新薬の開発に注目が集まっている。すでにマウスの実験で効果が確認され、このほど臨床試験を立案する論文が発表された。

米ミネソタ州の総合病院、メイヨー・クリニックのジェームズ・カークランド博士らのチームが4日発行の米老年医学会雑誌に投稿した。同博士は「現代の医学、科学の中で最も刺激的な分野の一つだ」と強調している。

私たちの体内では加齢に伴い、「老化細胞」が蓄積する。損傷を受けながらも死滅せず、生き続ける細胞だ。これがさまざまな臓器や組織で周囲の細胞に影響を及ぼし、病気の原因となるとされる。新たに開発されているのは、健康な細胞を傷付けずに老化細胞を破壊する種類の薬だ。

カークランド博士によると、老化細胞は糖尿病や心血管疾患、多くのがん、認知症、関節炎、骨粗しょう症、失明など、加齢に伴うさまざまな病気に関与している。

カークランド博士は臨床医として患者を診察するなかで、加齢に関連した病気に共通する「根本原因」を解決したいと考えるようになった。そのような研究は数年前まで夢物語だったが、2015年に米スクリプス研究所と同博士らの共同チームが新たな薬品群を発見。マウスの活力低下が抑えられ、より長く健康に生きられるようになるとの論文を発表した。

チームはさらに昨年の研究で、マウスの老化細胞を取り除けば血管の状態が改善されることを示した。

老化現象に炎症やDNAの変化、細胞の損傷、さらに老化細胞の蓄積など、細胞レベルのプロセスが関与していることは以前から知られていた。

新たな研究では、これらが互いに関連し合っていることが分かった。例えばDNAの損傷は老化細胞の蓄積を促進するという。老化細胞を破壊すれば、そのほかのプロセスを抑えることにもつながりそうだ。

カークランド博士らのチームが提案しているのは、老化細胞を除去する薬によって複数の慢性疾患を抱える患者や、骨粗しょう症のように体内の1カ所に老化細胞が蓄積した患者の治療を試みる臨床試験だ。特発性肺線維症のように、進行を抑える薬が見つかっていない病気に対する効果も調べる。

高齢者の活力低下に加え、化学療法や放射線療法によって起きる細胞老化に効果があるかどうかも検証するという。

同博士によれば、マウスの実験では脚に大量の放射線を照射して歩行に支障が出た状態から、1回投薬するだけでうまく歩けるようになり、その効果は2年間続くことが確認された。

臨床試験を開始する時期について、同博士は「重症の症例にどの程度の効果があるか、1年半から2年のうちには見当がつくだろう」と述べた。

臨床試験が行われれば、多くの製薬会社が開発や製造に名乗りを上げるとみられている。すでに関心を示している企業もあるという。

そのうちの一社、米ユニティー・バイオテクノロジーのナサニエル・デービッド社長は「この薬品群が今後数十年のうちに医療を大きく変えると確信している。皆さんのご両親や祖父母がかかっている病気、例えば加齢による関節炎などは、映画や本の世界だけのものになるだろう」と話している。

2017.09.09 Sat posted at 10:47 JST