子どもの頃から、何だかほっとした気持ちになれる本屋という空間が好きだ。
誰にとっても身近な場所である一方、「書店員はどんな一日を送っているのか」
「店お薦めの本はどう決まっているのか」といった未知の部分も多い。
メトロ書店本店(長崎市尾上町)などを訪ね、調べてみた。
午前8時半。常時約40万冊が並ぶ同店内。1箱に約40〜50冊の書籍が入った段ボール箱、
50〜60箱が運び込まれる。その一つ一つを開けることから書店員の一日は始まる。
中身はジャンルも出版社もばらばら。扱いに細心の注意を払いながら、全て手作業で
ジャンルごとに仕分けていく。仕分けた書籍は各コーナーに運ばれ、棚に並べられる。
同店の常務取締役で、出版文化産業振興財団(JPIC)の公認読書アドバイザーでもある
川崎綾子さんは、「書店員といえば落ち着いて仕事をこなすイメージがあると思うが、
実はかなりの重労働。腰を痛める人も多いんです」と苦笑いする。
本を手に取ってもらうための仕掛けにも気を配る。書店が特に薦める本は顧客の腰付近の
位置に、表紙が見えるように並べたり、ポップを作成したり。これらの作業に加えて、
レジでの接客や本の発注、返本作業など、めまぐるしく一日は過ぎていく。
中でも書店員の醍醐味(だいごみ)ともいえるのが選書作業だ。出版社から事前に送られてくる
新刊案内や、ツイッターなどの情報にもアンテナを張り、本を発注する。同店ではサラリーマンや
OLが訪れることが多いことから、ビジネスに生かせるものや東京で人気の本といった視点も
大事にしているという。
それではたくさんの本の中で、お薦めの本はどのようにして決まっているのか。
「究極的には直感です」と川崎さん。3年から5年以上勤めている店員であれば、表紙のデザインや
タイトル、帯、最初の一文を見て、パラパラとページをめくるだけで、売れる本は分かるという。
選書する上で、センスを磨くことも欠かせない。店員は文芸や雑誌など、各自が担当の分野を
持っているが、普段からさまざまなジャンルの本に触れることを心掛けているという。またポップ作りに
関しても、社内で月に数回研修会を開き、色の使い方やお客さんに目を留めてもらえる一言を磨いている。
同市内の他の書店でもお薦めの本の選び方を尋ねてみた。「ひとやすみ書店」(同市諏訪町)では、
店主の城下康明さんが読んで面白いと思った本を中心にそろえる。さらに購入した後も、読み直すたびに
新たな気づきを感じられる本を選んでいるという。
好文堂書店(同市浜町)は、話題の本や出版社からの案内を見ての直感に加え、同店の顧客に多い
40、50代以降の女性が好みそうなものを選んでいる。
取材の最後に、本を選ぶこつを川崎さんに聞いてみた。「普段読まないジャンルのコーナーまで足を
運んでみてください。なんだか気になると思った本に、自分が探している答えがあることが多いはずです」
朝晩はめっきり涼しくなり、秋の気配が感じられる今日この頃。本格的な読書の秋の到来を前に、
本屋を回り、書店員の思いを受け取りながら、お気に入りの一冊を探してみては。