[東京 12日 ロイター] - 文部科学省は、経営悪化が著しい私大に対し、事業撤退を含めた早期の是正勧告をできるような制度改正の検討に入った。複数の関係筋によると、少子化に伴う学生の定員割れが深刻化し、4割の私立大学が赤字経営に転落。「大学倒産」で学生に影響が出かねないと判断したからだ。

具体的には経営改善策を促す「イエローカード」の財務基準を定める方向だ。中央教育審議会の中間答申も踏まえ、今年末にはある程度の結論を得たい考えだ。

文科省の外郭団体である日本私学振興・共済事業団によると、2015年度末に全国の私大596校のうち40.8%にあたる243校が、授業料を含む事業活動収入よりも経費が上回る赤字経営に直面している。このうち赤字幅が事業活動収入の20%以上にのぼる大学が89校に上っていた。

背景には、少子高齢化に伴う18歳人口のはっきりした減少傾向がある。2005年に約137万人だったが、2017年に約120万人に減少。さらに2032年に約98万人となり、2040年には約88万人まで縮小するとの試算がある。

政府部内の複数の文教関係者は「大学法人の経営悪化が、本格化するのはこれからだ」と指摘する。

そこで、負債額が膨大な規模になる前に大学に対して警告を発し、早期に経営を是正させる「イエローカード」制度の導入について、文科省は検討を始めた。

具体的には、日本私学振興・共済事業団が策定した大学経営の状態を自己判断できるフローチャートを利用。このフローチャートでは、赤字継続年数や負債超過の状態などからレッドゾーン、イエローゾーン、正常状態の3つのゾーンに大学をランク付けする。

このうち、経営危機が深刻化するリスクの高い大学には、バランスシート上の指標を用いて「退場」を勧告できるような仕組みも検討する。

この新システムと同時に、文科省は私学助成金の配分の見直しも検討している。

総額3200億円程度の私学助成金は、大学の規模や経営指標に応じた現在の配分から、教育の「成果」に応じた配分とすることが、2017年度の政府の「骨太方針」に盛り込まれた。

欧米のように学生の成績向上や卒業後の年収などを可視化し、助成金の傾斜配分を行うべきとの発想だ。

しかし、実際の「成果」について、政府内や大学関係者に共通の認識が形成されていない。

また、助成金総額は財政難から06年をピークに減少傾向にある。日本私学振興・共済事業団によれば、15年度時点で私大の経常経費の1割弱しか賄えていない。

文科相経験者の一人は「私学のあり方や規模感など、全体のビジョンなく助成金を減らせば、私立大学は納得してくれないだろう」とみている。

文科省は今年3月、中央教育審議会に高等教育の将来構想を諮問。中間答申は今年末、最終答申は今後1年程度かけて結論を得る。

大学の必要規模数や助成金のあり方も含めて将来像が示されたのち、高等教育の抜本改革は、20年度ごろにスタートすることになりそうだ。 (編集:田巻一彦)

配信2017年9月12日 / 12:05
ロイター
http://jp.reuters.com/article/university-yellow-card-idJPKCN1BN07O