http://jp.reuters.com/article/column-nk-nuc-crisis-idJPKCN1BN0M9

John Mecklin

[12日 ロイター] - 弾道ミサイル発射、核実験、軍事演習、空虚な大言壮語──。こうした不穏な行動が見られるとはいえ、北朝鮮によるここ数カ月の「危機」は、大部分が絵空事である。

1年前、北朝鮮が核弾頭を搭載したミサイルを米国に向けて発射する可能性はほぼゼロだった。そのような攻撃能力がなかったからだ。その後、北朝鮮は技術的進歩を遂げている。

しかし、北朝鮮が米国本土を射程に収めるミサイルや、それに装備できる小型化された核弾頭、さらには核弾頭が大気圏に再突入する際に熱と圧力に耐えられるほどの遮蔽技術を有しているという確かな、入手可能な公的証拠は何もないと、一部の専門家は指摘している。

だからといって、そのような誇示が無害とも言い切れない。だがたとえ北朝鮮がそうした技術的能力を獲得していたとしても、同国が核ミサイルで米国を攻撃する可能性は、以下の決定的な理由から非常に低いといえる。

米国のオバマ前政権下の国家安全保障会議(NSC)で軍縮・不拡散のシニアディレクターを務めたジョン・ウルフストホール氏が詳細に説明しているように、北朝鮮の最高指導者、金正恩・朝鮮労働党委員長は、クレイジーでも自暴自棄でもない。

もし核兵器を使用するなら、自国が数時間で(それどころか数分で)消滅することを分かっている。米国の弾道ミサイルや爆撃機には約1590の核弾頭が装備されているため、それは確実だ。(この問題で最も権威ある公式報告によれば、北朝鮮は入手している核分裂性物質の量では、わずかに10─20の核弾頭を製造することしかできない。)

また米国が、北朝鮮に対し、通常の攻撃であろうと核攻撃であろうと、先制軍事攻撃に出る可能性はかなり低い。そうすれば、韓国で数十万人規模の犠牲者が出ることはほぼ間違いないからだ。

犠牲者の数はさらに増える可能性もある。核兵器に頼らなくても、北朝鮮が早い段階で数千発のロケットや迫撃砲で集中砲火を浴びせ、同国の国営メディアが脅すように、ソウルを「火の海」にもしかねない。

北朝鮮はまた、大量の化学兵器やロケット弾を保有しており、したがって、韓国の首都を神経剤サリンやVXガスの海に変えてしまう能力を有している。

互いに抑止し合っているという明白な現実を踏まえれば、2017年の「北朝鮮危機」は、金正恩氏とトランプ米大統領がメディアを通してそれぞれの国民向けに繰り広げているパペットショーと見るのが最も正確なのかもしれない。そうとはいえ、これは危険なショーである。

現在の過熱したメディア環境において、正恩氏とトランプ氏が、政治的効果や交渉で有利な立場を得るために、あるいは自己満足のために国際舞台で繰り広げる一幕のなかには、ケーブルテレビやインターネットで24時間ひっきりなしに誇張されるせいで、それぞれの国家に対する侮辱とも取られかねないものがある。そうした侮辱への感情的反応が、破滅へとつながりかねない事態のエスカレートを招く可能性を秘めている。

具体的に言えば、もし米軍が日本上空を通過した北朝鮮のミサイルを撃ち落としていたなら、正恩氏は怒って、あるいは虚勢を張って、別のミサイルを、恐らくはグアムの方向に発射しただろうか。そのとき、トランプ氏はマッチョな対応をせざるを得ないと感じただろうか。きのこ雲に覆われる結末もあっただろうか。

北東アジアで創作された劇場型危機によって引き起こされる不用意な戦争のリスクを減らす最善策は、正恩氏とトランプ氏という主役が繰り広げるショーが、荒唐無稽で、どちらも欲しいものは手に入らない、と2人を説き伏せることだ。
>>2以降に続きあり)

2017年9月12日 / 09:16 / 14時間前更新