北海道の土産物として全国的に知られていながら、ここ数十年は脇役になっていた熊の木彫りが、再び脚光を浴びている。札幌市など道内各地で展覧会が開かれ多くの見学者が足を運んでいるほか、主にアイヌが製作している木彫り熊を買い求める客が増えている土産物店も出ている。

 「うわ、迫力あるなあ」「これ、かわいいね〜」。札幌市中央区の市資料館で開かれている「北海道の木彫り熊展」(10月1日まで)には連日、見学者が絶え間なく訪れ、展示されている熊を楽しげに鑑賞している。

 出品されているのは、市内在住の造形作家、山里稔さん(73)のコレクションを中心に約300点。ネットオークションや骨董こっとう店で集めたもので、多くは土産物として製作されたものだ。

昭和40年代頃までは、全国の多くの家庭で北海道の土産物として、熊の木彫りが玄関のげた箱やテレビの上などに置かれていたが、マンションの普及といった住宅事情の変化や大量生産による商品の粗悪化などによって急速に廃れていった。

 「北海道の貴重な文化遺産が失われる」と危機感を抱いた山里さんは、2010年頃から収集を始め、3年前にそれらを紹介する写真集「北海道 木彫り熊の考察」を出版。これが木彫り熊が見直される一つのきっかけとなった。

 木彫り熊を集めた展覧会は今年、八雲町木彫り熊資料館や平取町・二風谷工芸館、旭川市・川村カ子ネトアイヌ記念館で相次いで開催され、それぞれ好評を博した。9月26日からは平取町・沙流川歴史館で「クマの意匠展」、10月14日からは、JR札幌駅のアイヌエカシ(長老)像を制作した木彫家、藤戸竹喜さんの作品を紹介する展覧会が札幌芸術の森美術館で開かれる。

 土産物についても、小物を中心に関心が徐々に高まっている。

 アイヌの木彫りを扱う北都工芸社(旭川市)の担当者は「ここ数年、小さな熊は割と出るようになってきた。若い人や中国、韓国からの観光客には新鮮なようだ」と説明する。新千歳空港で土産物店を営む耕人舎(千歳市)も「脱臭も兼ねた黒墨製の小物は売れている」としている。

 一方で、ブームだった昭和30〜40年代に比べると熊を彫れる職人の数が極端に減っており、販売できる大きな木彫り熊が少なくなっていることが悩みになっている。ネットオークションでは、昔のものが骨董品としての価値が見直され、数年前の数倍から10倍の値段で取引されているという。

こうした現象について、八雲町木彫り熊資料館の大谷茂之学芸員は「アイヌ文化への関心の高まりも影響している」と分析。北海道大アイヌ・先住民研究センターの山崎幸治准教授も「最近のアイヌの木彫り師の中には芸術性の高い作品を作る人が少なくない。その土台となった、土産物の木彫り熊はもっと注目されていい」と期待している。
http://yomiuri.co.jp/hokkaido/news/20170913-OYTNT50158.html
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