さまざまな日常の料理に使われて、日本の食卓に欠かせない豆腐。この豆腐、大豆の使用割合などにかかわらず全てが「豆腐」として販売されている。このため、高級品と低価格品の違いは、商品の表示だけでは分かりにくかった。「豆腐」とは何か。業界が初の定義作りに取り組み、平成31年までの告示を目指している。(平沢裕子)

 天明2(1782)年に刊行された「豆腐百珍」では、煮る・焼く・揚げる・生−など、豆腐を使ったさまざまな調理法が紹介されている。200年以上にわたって食べ継がれてきた豆腐だが、なぜこれまで定義がなかったのだろう。消費者からは、「高い豆腐は大豆をたくさん使っているのか」「にがりと凝固剤は別のもの?」といった疑問の声も多かった。

 「かつては豆腐は街の豆腐屋さんで買うのが当たり前でした。それぞれの店で職人かたぎの店主が独自の製法でおいしい豆腐を作っていて、定義は必ずしも必要でなかったのです」

 こう話すのは、豆腐の定義作りに取り組む「豆腐公正競争規約設定委員会」議長で、豆腐メーカー常務の村尾誠さんだ。

 しかし、豆腐も今やスーパーなどで購入するほうが一般的。消費者の商品選択のためには「豆腐とは何か」を定義する必要が出てきた。同委員会は、準備期間を含め約3年の議論を経て昨年、「豆腐の定義・分類(案)」を作成した。

案では、豆腐に含まれる大豆の割合「大豆固形分」を基準に、10%以上で凝固剤と水だけを使用したものを「豆腐」▽8%以上で凝固剤以外の材料も使ったものを「調製豆腐」▽6%以上で調製豆腐より加工度の高いものを「加工豆腐」−と3分類。これと別に、加工状態や硬さに応じて、木綿▽ソフト木綿▽絹ごし▽充填(じゅうてん)絹ごし▽寄せ(おぼろ)−の5分類も設ける。

 村尾さんは「大豆をどのぐらい使っているかが分かり、消費者が選ぶ目安になる」と期待を寄せる。

 一方、「凝固剤」はどうか。食品表示法では、パッケージに「凝固剤」と表示するだけでよいが、案では凝固剤の物質名についても表示を義務化する。

 凝固剤には、安全性と有効性が確認された「指定添加物」である塩化マグネシウム(にがり)や硫酸カルシウム(澄まし粉)など計6種類があり、「今はにがりを使った豆腐がいいと思っている人が多いが、凝固剤にはそれぞれに良さがある」と村尾さん。

 例えば、にがりを使うと、大豆本来の風味や甘みが出やすく、味が濃い豆腐になる。冷ややっこなどには向いているが、煮物や湯豆腐のようなだしを使った料理では、だしの繊細な風味が引き立たない。だしを使った料理には、澄まし粉を使った豆腐が向いており、京都名物の湯豆腐はすまし粉で固めた豆腐を使うことが多いという。

 また、グルコノデルタラクトンという凝固剤もある。大豆濃度が低くても固まりやすいことで、低価格のものに使われることが多い。この凝固剤で作った豆腐は若干酸味があるといい、酸辣湯(サンラータン)や参鶏湯(サムゲタン)など中華や韓国料理に使うのがお薦めだ。

 村尾さんは「大豆濃度が高ければおいしいわけではなく、多様性も日本の豆腐文化の特長。料理や好みで、選ぶ目安にしてもらえれば」と話す。同委作成の豆腐の定義は、消費者庁、公正取引委員会での審査などを経て、平成31年3月の認定・告示を目指す。

【用語解説】表示に関する公正競争規約

 事実と異なる広告などで消費者が不利益を被らないように、各業界が扱う商品について、より具体的で適切な表示のルールを自主的に設定し、消費者庁などが認定する。公正で自由な競争の確保と消費者の自主的・合理的な商品選択に役割が重要視されている。

http://www.sankei.com/smp/life/news/170926/lif1709260006-s1.html
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