この作品を世に出す前にイシグロは国籍をイギリスに変えている。重要な決断だった。

かれの心には常に日本の残照がある。

「もはや日本で暮らすことはできません。日本語を話せないし、慣習もわからないのですから。
 自分自身に日本人になれるかと問いかけて、無理だと気づきました。
 日本に来るとよく知っている場所のように思えます。しかし、あらゆる意味で滞在が最も難しい国でもあります。
 日本語が話せない。理解できそうで理解できない。
 感傷的には日本人であり続けたいと感じていたし、イギリス人になることは裏切りなのかもしれません。
 しかし、英国教育だけで育ったわたしは後戻りできなかったのです」。