連続幼女殺害事件の犯行動機は何だったのか

宮崎勤に下された死刑判決は、検察の主張したストーリー、つまりわいせつ目的で幼女を誘拐し、騒がれたので殺害したという筋書きを概ね踏襲した。
また大きく3つに分裂した精神鑑定のうち、責任能力ありというものを採用したのも裁判所の判断だった。
これだけの社会的大事件だから、裁判所としては死刑判決を下すしかないと判断したのだろう。

ただ気になるのは、この事件にはその筋書きでは説明できない部分も多く、それについての考察が放棄されてしまっていることだ。
例えば、宮崎は幼女を殺害した後、解体しているのだが、あの執拗なまでの解体行為や、幼女の骨を食べたり血を飲んだりといった行為は、
わいせつ目的といった単純な理屈にはどうにも収まらない。
またこのストーリーで一番問題なのは、宮崎勤が鑑定などでしばしば強調している祖父の死によって受けた衝撃が全く光をあてられなくなってしまうことだ。

宮崎勤の祖父は88年5月11日早朝、愛犬と散歩の途中、脳卒中で倒れ入院。16日に死亡する。
宮崎は両親が共働きだったためにこの祖父に可愛がられてきており、この出来事に大きなショックを受ける。
親族が遺体を運ぼうとした時に、宮崎勤は突然カバンからテープレコーダーを取り出し、愛犬の声を祖父に聞かせるのである。
それは祖父の目を覚まさせるための行為だったという。
火葬場で祖父が一気に骨になってしまうことも、宮崎勤には衝撃的な体験だった。彼は後に精神鑑定に答えてこう語っている。
「一瞬にしておじいさんがなかった。木の箱に入っていたのに。おじいさんの骸骨見られると思った」
宮崎は、棺桶に入った祖父が一瞬にして存在を失ったことに衝撃を受ける。
「あれーっとなった。今までの考えが180度ひっくり返る思いだった。おじいさんが見えなくなっただけで、姿を隠しているんだと強く思った」(保崎鑑定より)。
宮崎勤は、殺害した幼女の遺体を「肉物体」、白骨化した状態を「骨形態」と表現するのだが、
これは、人間が死ぬと「物体」や「形態」に変わっていくという彼の観念を表した表現だ。
愛する祖父が「人格」から一気に「形態」に変わってしまったことが彼にとっては衝撃的な体験だった。
彼はこの祖父の死をきっかけに「感情がすっぽり抜け落ちた」という。また幻聴を自覚するようになるのもこの頃からだとも述べている。