北の海で、受刑者たちが「海の男」としての再出発を期し、船を操っている。函館少年刑務所(北海道函館市)の「少年北海丸」。刑務所で船員を養成する国内唯一の実習船だ。高齢化に悩む漁業や船舶業の関係者も熱い視線を送っている。

 「釣り船らしきボート、500メートル先左へ進む!」。8月上旬、函館港を出港した少年北海丸の操舵(そうだ)室。双眼鏡を構えた見張りが近くを航行する船を見つけて声を上げると、操舵輪を握る訓練生が「おもかじいっぱーい!」とかじを切った。

 船を操るのは全国の刑務所から志望して集まった船舶職員科の25〜50歳の男性受刑者11人。航海法規などの授業や函館港内での航行訓練に加え、夏は夜間訓練としてスルメイカ漁にも出る。訓練時間は1年間で約1500時間に及ぶ。

 多くの職業訓練では受刑者同士の会話は原則禁止。だが海の上では互いに声をかけ合い、息の合ったチームワークが求められる。入出港時のロープの取り外しや電源の切り替えなどは11人全員で作業する。

 この日、見張りとして船の右舷に立った男性受刑者(44)は薬物の元売人だ。「なんとなく仕事が見つかるといいな」と軽い気持ちで参加した。次第に船の魅力にとりつかれ、今は「ロープの結び方とか覚えることがたくさんあって大変。でも知れば知るほど船の仕事っておもしろい」と感じている。「出所後は遠洋漁業の仕事がしたい」という具体的な目標も生まれた。「厳しい環境に身を置いて、刑務所の中での5年間を取り返したい」

 刑務官の指導にも力が入る。工…

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