神奈川県在住の会社員・田中理絵さん(仮名・34才)は、5年前に乳がんを患った。闘病中に待っていたのは、病以上の悪夢だった。

「最初は“会社を辞めてでも看病する”と言ってくれたんです。でも、私がどんどんやせていき、抗がん剤の副作用で髪が抜けはじめると、露骨に避けるように。
病院に来る頻度も、2日に1度から1週間に1度、しまいには1か月に1度になり、必要なものを渡しにくるだけになりました。
不機嫌になることが多くなり、ついには浮気に走ったんです。しかも浮気が発覚した彼を私がなじると、
『お前におれの気持ちがわかるか』と逆ギレして家を飛び出し、結局離婚することになりました」

3年前に胃がんを患った埼玉県在住の主婦・近藤聖子さん(仮名・36才)も、がん告知を受けて以降、夫婦関係が崩壊した1人。

「最初は私自身もパニックで、夫と一緒に泣き続けました。でも、いつまでも絶望していても仕方ない。
病気に向き合って、治療に専念しようと気持ちを切り替えたのですが、むしろ夫の方が沈み続けてしまって…。

抗がん剤と放射線の治療経過があまりよくなく、医師から報告を受けるたびに夫はオロオロとうろたえるばかり。
金融関係の仕事で、規則正しい生活をしていた夫ですが、やがて夜の帰りも遅くなりました。
病の私と向き合うことが怖かったんでしょうね。お酒のにおいをさせて帰宅することが増えました」

闘病生活が半年以上経ったある日のこと。夫が携帯を常時手放さなくなったことを不審に思い、
就寝中にのぞき見たところ、会社の後輩女性と頻繁にメールしていることがわかった。

「当初は、私の病に悩む胸中を吐露していた文面が、いつしか『家に帰るのがつらい』『きみといると心が安まる』といった言葉が増えていって…。
結局のところ夫は、“現実から逃避できる場所”を別の女性に求めたのです」(聖子さん)

今年1月に無事寛解した彼女だが、一度ほつれた糸が修復することはなく、夫は家を出て別居している。

夫に捨てられる女性が増加している要因は、がんに罹患する年齢の男女差が関係しているといわれている。
0代までは女性の方ががんを発症している人数が多いのだ。離婚カウンセラーの岡野あつこさんが語る。

「50代前というと、男性はまだ仕事も現役。ある程度の地位もあり、人によっては最も多忙な時期です。
そこに妻のがん闘病が重なると、全ての力を看病に注ぐことは難しい。公私に挟まれた結果、心身が疲弊して“逃げ場”を求めてしまうケースが多いんです」

元国立がん研究センターがん予防・検診研究センター長で、グランドハイメディック倶楽部理事の森山紀之さんは“男性心理の弱さ”を指摘する。

「人生において生理や出産などを経験する女性と比べ、体が変化する機会が少ない男性は、重大病に相対した時に精神的なもろさが出る。
とりわけがんの場合は、『恐ろしい病気』というイメージだけでパニックになりがち。がんを直視できず、がんを正面から受け止めない傾向があるんです」

本誌・女性セブンは既婚男女各100人を対象に、「夫/妻ががんになったら、支え続ける自信はありますか?」というアンケートを実施。
すると、「自信がある」と答えた女性が65%だったのに対し、男性は75%。アンケート上では、男性の方が妻の看病に対し、積極的だという結果が出た。

しかし、この結果はあくまで「もしも」という仮定での話。前述の通り、現実に「妻のがん」という事実を突きつけられた時、その重みを受け止めきれない男性は少なくない。
前出の田中さんも自身の体験をこう振り返る。

「別れた夫は私が病気になる前は、“どんなことがあってもきみを守るよ”とか歯の浮くような言葉ばかり口にしていました。
だから私もがんを告知された時は、ショックでしたが、“夫がいるから大丈夫”と言い聞かせていました。でも、闘病が進むうちに、夫は豹変していって…。
病気や浮気もつらかったですが、それ以上に、変わっていく夫の姿を目の当たりにすることが、精神的にきつかったですね」

※女性セブン2017年10月26日号