この事故で死亡した鈴木登喜夫さんの長男・鈴木徳仁さん(48)は振り返る。

「事故後、警察からは、加害者は事故発生時、時速40キロの法定速度で走行していたという説明を受けました。
また、見せてはもらえなかったのですが、加害車のすぐ後ろを走っていたタクシーのドライブレコーダーに、事故の瞬間が映っていたということも聞きました。

そこで私たちは、本当に時速40キロだったのか、また父はどのように亡くなったのかをこの目で確認すべく、
名古屋市内のすべてのタクシー会社に急いで問い合わせ、ついにその瞬間映像を見ることができたのです」(鈴木さん)

事故からすでに1週間が過ぎていたが、幸いにもタクシー会社にはそのときの映像が残っていた。

冒頭の動画は、そのときタクシー会社で再生したドライブレコーダーの映像を鈴木さんが自身のビデオで接写したものだ。

「ようやく見つけた映像には、父が跳ね飛ばされる瞬間と、事故後、停止することなく速度を上げて逃走するシルバーの車、
そしてその車を必死で追いかける、黒い服を着たAさんの姿がはっきりと映っていたのです。
辛い映像でしたが、これを見る限り、加害車は時速40キロをはるかに超えていることは明らかでした」

ところがこの事件、その後、思わぬかたちで処理が進んでいく。

加害者は「自動車運転過失致死罪」で略式起訴され、罰金30万円の略式命令を受けたが、
「ひいたのは袋に入ったゴミか石だと思った」と供述したため、ひき逃げ(道路交通法違反)については不起訴処分となったのだ。

「ひき逃げには当たらない」
事故から約4か月後、名古屋地検へ出向いた遺族に対して副検事がおこなった不起訴理由の説明は、信じられないものだった。

「担当副検事は、『加害者には人だという認識がなかったのだから、この事故はひき逃げには当たらない』と言うのです。
また、加害者の印象については”キャラクター”という言葉を何度も使い、『普通のサラリーマンでいかにも小心者みたいな顔なので、
裁判官にボソボソボソ泣きながら、本当に知らなかったんですよと言われたら、(裁判官に)伝わっちゃう』とまで言われたのです」

この日、同席した遺族側の代理人弁護士は、

「加害者がたとえどんな印象であっても、その人がひき逃げをしたのは事実。裁判官はそんな印象で左右されてはいけない!」と、
副検事に強く反論したが、副検事からは、さらに信じられない言葉が次々と飛び出した。

「『加害者は仕事で18時間も寝てなかったんだからかわいそうだ』とか、『酔っ払いが道で寝ていたから轢いてしまったと加害者が言えば、たとえ轢いたことが事実でも無罪になるんだ!』といった、
全く意味が通らない理由を並べ立てられました。
そもそも、父は道で寝ていたわけではないのです。

とにかく副検事から出る言葉はどれも加害者擁護で、立証が難しい事案にはかかわりたくない、そんな態度をありありと感じました」(鈴木さん)

亡くなった鈴木登喜夫さん