ある朝、母親が死んだ
 
母は唯一心を許せる人、無様な自分をさらけ出せる唯一の人だった そんな母がついに死んだ
いくら揺すっても布団で寝たまま動かなかった、すでに親父は6年前に他界してる

平凡な日常が終わった、俺は寒気がした

普通は悲しいとか思うんだが、怖くて仕方なかった
自分に喪主なんか到底無理だ、何を語れるんだ?近所親戚に合わす顔がない、怖い
どうしよう、それしか思い浮かばない

しかしやるしかない、パニックになり電話帳をめくってみたり葬式や住職をネットで意味もなく検索する
すでに時間もたち母親が死後硬直?してきて急いでエアコンを全快でかけてみる
結局は夕方、弟に電話でなくなったことを渋々連絡する
弟はいろんな親戚に電話をしたらしい

俺は2階の部屋に閉じこもったままタイミングを失い出るに出れなくなる
下の方でたくさんの声が聞こえてくる。急だったわねとか、あなたご長男さん?などと弟に言っている
俺は消えたいが消えることもできない、しばらくして三男と妹も到着、親戚も集まり大勢だ、大人たちの声がすごい

ドドド、ドタドタ階段を駆け上がってくる、やっぱり来た
俺の部屋の前に肉親が集まり「こんな時にどうしたんだ?」「病気か?」などと声が廊下に響く
案の定ドアをドンドン叩く、大勢がドアの前に居る 出るに出らない
布団をかぶってミノムシのように時間が過ぎるのを待った、糞小便はゴミ箱にした
深夜、腹がすいて仕方ないので冷蔵庫に行こうとしたがソファーに人の気配を感じたのでやめた

翌日さらなる地獄だった
近所の人が次々とくるわ母親の知り合いまでくる
何度も声が聞こえてくる「ご長男さんは?」「今は何をしてらっしゃるの?」胸が痛い 階段を降りようとしたが足がすくんで動かない

母が家からいなくなる日、クラクションを鳴らす霊柩車を自分の部屋からカーテン越しに見て手を合わせた
自分でも何をやってるのかわからなくなってきた
火葬場に行くために親戚がいなくなった閑散とした線香のにおいが漂う部屋で大泣きした 最後まで何もできなかった