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【11月5日 AFP】健康的な食事にこだわり過ぎた結果、命さえ危険にさらすことがある──専門家らが最近警鐘を鳴らしている「オルトレキシア」という病だ。

 フランス人女性のサブリナ・ドビュスカ(Sabrina Debusquat)さん(29)はこの1年半の間に、まずベジタリアンになり、次に卵や乳製品、蜂蜜なども食べないビーガンになり、さらに生の食材しか食べないローフード主義者になり、最後はフルーツしか食べないと決めた。心配していたボーイフレンドがごっそり抜けた彼女の髪の毛をバスルームで見つけ、それを目の前に突き出されて初めて自分が良くない方向に向かっていると悟った。

 ドビュスカさんは「健康で正しい食べ方、長生きのできる食べ方だと思っていた。純粋な状態でいたかった。だけど最後は自分のそういう思いに対して、体の方がノーと言った」と振り返る。

 彼女を襲ったのは、専門家の間で「オルトレキシア・ナーボウサ」と呼ばれている新しい摂食障害だ。オルトレキシアに苦しんでいる人は「自分で自分に課したいろいろなルールにとらわれてしまう」と、トゥールーズ大学ジャン・ジョレス校(University of Toulouse-Jean Jaures)のパトリック・ドヌー(Patrick Denoux)教授は言う。そのような非常に厳しい決まりを自分に課すことで、知人との食事に出かけなくなったり、極端な場合は健康が危険にさらされたりすることもある。

 オルトレキシア・ナーボウサという病名は、1990年代に米サンフランシスコで代替医療を行っていた医師のスティーブン・ブラットマン(Steven Bratman)氏が命名した。

 オルトレキシアは、健康な食事への関心が病的な強迫観念となり、社会からの孤立や精神的混乱、さらには身体への害を招く場合を言う。ブラットマン氏が2000年の共著で使った言葉を借りれば「善行のように見える病」だ。インターネットで病状を検索して自己診断する「サイバー心気症(サイバーコンドリア)」によって、これがあおられているのではないかと考える専門家もいる。

 だが、精神医学界で広く診断基準とされている米精神医学会の「精神障害の診断と統計の手引き(DSM)」にはオルトレキシアは含まれていない。

■「恐怖症」に近い

 仏ルーアン大学病院(Rouen University Hospital)の栄養科長、ピエール・ドシェロット(Pierre Dechelotte)氏によると「オルトレキシアという病名は一般的なもので、医学的には承認されていない」が、「制限的な食事に関連する障害」の部類に属するという。

 またドシェロット氏の見解では、男性よりも女性の方が2倍以上の確率でオルトレキシアになりやすいとみられる。

 一方、フランスとスイスで30年にわたって診療を行ってきた精神科医アラン・ペロー(Alain Perroud)氏はオルトレキシアについて、摂食障害というよりも「恐怖症(フォビア)に近い」と言う。従って他の恐怖症と同様に、間違った思い込みや強迫観念について語り合う他、リラクゼーション療法のような不安解消法などの認知行動療法で対処できるとペロー氏は考えている。

 一方、医療現場の外では、オルトレキシアという言葉が徐々に広がっている。

 米国人のブロガー、ジョルダン・ヤンガー(Jordan Younger)さんは、自分が不健康な生活への下降スパイラルに陥っていたときのことを「制約のバブル状態」だったと表現する。「完全なビーガン、完全な植物性食品、完全なグルテンフリー、オイルフリー、精糖や小麦粉、ドレッシング、ソースも一切なし」といった食事に取り付かれていたという。

 フランスの研究機関「生活条件調査研究センター(CREDOC)」のパスカル ・エベル(Pascale Hebel)氏は、食の安全に関する相次ぐスキャンダルも人々の不安をかき立てる原因の一つだと指摘する。欧州ではこの30年ほどの間に、狂牛病から最近の卵の殺虫剤汚染までさまざまな問題が起き、また抗生物質の使用や遺伝子組み換え(GM)食品に反対する声も高まっている。

 さらにドヌー教授によれば、オルトレキシアは自分がコントロールを握ることへの欲求を反映している。つまり食品が、健康に有害な欧米型ライフスタイルに対する薬代わりにされているという。「私たちは今、食文化の変遷期に生きている。自分たちが食べているものに対して根本的な疑問を抱くようになったのだ」

(c)AFP/Clara WRIGHT

2017年11月5日 8:30 発信地:パリ/フランス