・貧困の定義って? ・「貧困たたき」をするのは誰か ・大人たちの「理想の子ども観」

「飢えて倒れるほどではないけれど、貧困状態」という子どもの暮らしって、想像できますか? 子どもの貧困問題は、極端に貧困な子どもに注目が集まりがちですが、生活保護を受けてはいないけれど、生活が苦しいという家庭も少なくありません。そういう家庭の家計簿をつけてみることで、どんな暮らしなのかを理解するワークショップを考えた人がいます。聞いてみました。(朝日新聞東京社会部記者・原田朱美)

■両親と子ども1人、月収17万円

 こどもソーシャルワークセンター(大津市)の代表で社会福祉士の幸重忠孝さんです。

 家計簿体験は、37歳の両親、中学1年の子どもの3人家族、収入は月17万円という設定で行います。もちろん家庭によっていろんな違いがありますが、「極端ではない貧困」のひとつの事例です。

 参加者は、17万円から住居費や食費、教育費などを割り振っていき、「極端ではない貧困」の暮らしを追体験します。

 実際に幸重さんの家計簿体験に参加した人たちの様子は、こちらの記事で詳報しています(動画あり)。
 http://www.asahi.com/articles/ASK7G7W81K7GPTFC01X.html
 
 また、家計簿体験のやり方や詳細は、「子どもの貧困ハンドブック」(かもがわ出版)にも掲載されています。

 やはり、貧困を極端なイメージでとらえている人は多いのでしょうか。

 「多いですね。ご飯をろくに食べていない、服がボロ、家もボロといったイメージ。学校の先生も貧困に気付いていないことがあります」と、幸重さん。

■月17万円の暮らしを体験

 そして、次に17万円のワークに移ります。

 「それまでワイワイ議論していたのが、みんな頭を抱え始めます。それぞれの費目に最低限必要な金額を置いていったら、もう残らない。金額の置き方も、各グループとも差がありません。そこで『貧困というのは、選択肢がない生活なんですよ』と説明します」

 「これ以上収入が少なければ、生活ができませんから、生活保護になる。17万円って、公的支援はほとんどありません。たった1〜2万円の支援でも当事者には大きいと、分かりますよね」

 「だいたい、削れる費目って、住居費、食費、教育費、交際費しかないんです。だから、子どもの貧困支援で、子ども食堂とか、進学支援とか、この費目にあたる部分の支援が必要ですよねと説明すると、説得力をもって聞いてもらえます」

 このワークショップをやった後、人々の貧困に対する認識は、どう変わるのでしょうか。

 「貧困の何が課題なのか、具体的にわかったと言われますね」

 そのイメージをくつがえすのは、なかなか大変です。

 幸重さんは、「エピソードだけで貧困を知ってもらうことの限界」と指摘します。

 たとえば、貧困問題を知ってもらうために、次のような話をするとします。

<ある子と一緒にお風呂に行ったら、うまく髪を洗えない。髪をぬらさずに、シャンプー液をペタっとつけてしまう。なぜなら、その子は親子で風呂に入る経験がなかったから、親に教えてもらっていない>


 「社会の多くの人にとって当たり前のことができない」ということを示す端的なエピソードですが、だからといって、この家庭が衣食住に事欠き、子どもが毎日飢えているとは限りません。服が破れているとは、限りません。

 でも、このエピソードだけを聞くと、「きっと食事も満足にとれず、悲惨な暮らしをしているんだろう」と想像してしまう人もいます。

 「映像資料は特に、ドラマチックに、悲惨に描きがちですよね。『もうそれは生活保護じゃないの?』という暮らしをしている印象になってしまう。暮らしの90%は地味なのに、10%の端的なエピソードを出すことで、100%ひどい暮らしなんだと思われてしまう」

 そこで2014年から続けているのが、家計簿体験だそうです。

 これなら、実際の貧困家庭は何ができて、何ができないのか、誤解が減ります。 >>2以降に続く

withnews  2017年11月08日
https://withnews.jp/article/f0171108003qq000000000000000W03j10101qq000016214A