>>314
龍馬が暗殺されたのは11月15日ですが、そのころ妻のおりょうは、下関で妹と暮らしていました。
16日の夜に龍馬の夢を見たそうです。
それは、「全身、紅に染み、血刀をさげて、しょむぼり」した姿でした。
翌17日、龍馬の死を報せる使者がやってきたものの、その人は気の毒でならず、
おりょうには何もいえないまま8日がすぎ、そのあと、ようやく三吉慎蔵が、
おりょうに龍馬の死を、はっきりと伝えたそうです(『反魂香』)。

もう一つあります。没後37年たった明治37年2月のことです。夢を見られたのは、
そのころの皇后陛下(昭憲皇太后)で、日露戦争の開戦の直前のことでした。
死の直後は「しょむぼり」していた龍馬も、この時の夢になると、ずいぶん元気になっています。
最後に、そのころ『時事新報』に掲載された記事をかかげておきましょう。

皇后陛下(昭憲皇太后)が、葉山御用邸に御滞在された去る二月初旬のことだそうです。
いうのもおそれおおいことですが、ある夜の夢に、白無垢を着た一人の男が、御座所の入り口にひれ伏して、こう申しあげました。
「私は、維新の前、お国のために、働いておりました土佐・海南の坂本龍馬と申すものでございます。
海軍のことは、そのころから熱心に心がけておりました。このたびロシアとの戦いが、いよいよはじまろうとしております。
いざ……そうなった時、私は、もうこの世のものではないものの、私の魂は、わが国の海軍に宿り、忠義の心があって勇敢な、
正義の心があって節操がある、そのような日本の軍人たちを守る覚悟でおります」

男がそう申しあげた……と思ったら、その姿は、かき消すようになくなりました。
(千頭清臣『坂本龍馬』)
そのあと、昭憲皇太后が、龍馬の写真を取り寄せて見ると、
それは、まさにその夢にあらわれた男であった……といいます。