そしてここにも「8・6秒」と同じように、保守系言論人・文化人の関与がある。「韓国ではトンスルを常飲しているようです」などと、著作を持つ複数の保守系言論人や文化人がSNSや動画の中で明言する。

 或る保守系言論人の講演会などで、「朝鮮人は人糞を飲んでいるくらいですから、頭がいかれているんですね」などというと、聴衆がドッと受けるという場面に私が遭遇したことは一度や二度ではない。
「韓国ではトンスルが愛飲されている」というフェイクニュースは、元来匿名の、真偽不明な韓国に嫁いだ日本人女性のブログ≠引用したフェイクニュース(その筆者も匿名)である。
さらにそれを保守系言論人や文化人が2次引用する形で「嫌韓」のヘイト的文脈の中に落とし込むことで、「韓国人=トンスル常用」のデマは、一時期ネット空間では常識的なものとなった。

 当然、現在韓国の津々浦々を探しても、トンスルを常用している家庭など存在しない。
日本には現在でも忍者がおり、切腹が社会的慣習であると信じている西洋人(そんな慣習はどこにも存在しないが)と同等かそれ以下の悪質な匿名のデマゴギーを、
保守系言論人・文化人が引用することにより、フェイクニュースがいつしか「ニュース」に昇格し、さも事実であるかのように刷り込まれていった典型的な事例である。

 ちなみにこの悪質なロケットニュースのトンスル記事、本稿執筆時点(2017年10月)でも、くだんのサイトから削除されないまま、もう8年以上放置されている。
その存在すら不明な韓国に嫁いだ日本人女性のブログ≠引用したフェイクニュースが8年も放置されてなんの咎めも受けない現状が、日本のネット空間におけるリテラシーの低さ(日本型フェイクニュースの苗床)を象徴しているようだ。

「上流発」のデマ、拡散力強く

 これまではネット空間の下流域、つまり匿名の人々から発せられるフェイクニュース=デマを、上流域に存在する非匿名の言論人や文化人が引用することで、その信憑性に「箔が付」き、フェイクニュースが「ニュース」に昇格される事例を見てきたが、
実際には日本型フェイクニュースの分類としては、ここで扱う保守系言論人・メディア拡散・定着型(上流発生)≠フケースが、現在では大きなウェートを占めていると言える。

 この場合のフェイクニュースの製造過程とは、T型の(下流発生)とは違って、そのデマの発生源が最初から非匿名の保守系言論人・文化人から生み出され、それが燎原の火のごとく下流域のユーザーに拡大していくことにより、雪だるま式にフェイクニュースが広がっていくという図式である。

 つまりT型のフェイクニュースが下からのデマ発生であるのに対して、U型のフェイクニュースは上からの発生である、ということである。当然この場合、フェイクニュースの拡散の度合いはT型に比してU型の方が強い。

 そして下流域にそのデマが伝播される際、「著作等を持つ社会的地位のある人間が言っているのだから」という前提が最初からあるので、U型の方が「最初から説得力を持っている」という点において、フェイクニュースのフォース(力)としてはより強く、真に迫った説得力を匿名の下流域の人々に提供するのである。

(以下省略)