体長約3メートルの巨大「タカアシガニリドゥ」を演奏する北川和樹さん=静岡県沼津市戸田
http://www.sankei.com/images/news/171205/lif1712050053-p1.jpg

 日本近海の水深200〜400メートルの深海に生息し、大きいものだと体長が3メートルを超える世界最大のカニ「タカアシガニ」。タカアシガニ漁が盛んな静岡県沼津市戸(へ)田(だ)で、そんなタカアシガニを食べるだけでなく、楽器にしてしまった音楽家がいる。オーストラリアの民族楽器である「ディジュリドゥ」奏者の北川和樹さん(34)で、自ら製作した“新楽器”「タカアシガニリドゥ」を引っさげて地域のイベントなどで演奏を行い、まちのPRに一役買っている。(吉沢智美)

 ディジュリドゥはオーストラリア先住民アボリジニに伝わる世界最古の金管楽器。元々はシロアリによって中身が食べられて空洞になった長さ140センチほどのユーカリの木を楽器にしていたとされ、吹き口につけた唇を振動させて独特の重低音を響かせる。

 北川さんは21歳のときに海外でバンドを組もうと渡豪。ところが持参したギターは飛行機の中で他人の荷物に押しつぶされ、空港に着いたときには使いものにならなくなっていた。

 失意の中、シドニー市内をぶらぶら歩いているときに偶然目についたのが土産物店に置いてあったディジュリドゥだった。その場で購入して市内で路上ライブをしていたところ、ディジュリドゥの専門店の店主から声を掛けられ、同店で働きながら楽器の腕を磨くことになった。

 1年後に帰国して以降は「SMILY−Didgeridoo(スマイリー・ディジュリドゥ)」の名で演奏家として活動。アルバイトをしながら企業のイベントでの演奏やドラマの劇中BGMの制作などに参加し、平成22年ごろからはディジュリドゥ奏者1本で生活ができるようになった。

 北川さんは演奏と同時にディジュリドゥの製作も手掛けており、「静かな環境で楽器をつくりたいのなら」と友人から楽器の製作場所として薦められたのが戸田だった。

 当初は3カ月程度の滞在の予定で28年7月に戸田を訪れたが、ホテルでの演奏会などを通じて地域住民と交流しているうちに戸田を離れがたくなり、同年10月から3年間の任期で地域おこし協力隊となってまちおこしに協力することに。戸田のPR動画づくりで今年7月にタカアシガニ料理専門店を訪れた際に、タカアシガニの脚の太さがディジュリドゥの筒の太さに近いことに気付き、タカアシガニを使った楽器づくりを思いついた。

 地域おこし協力隊になった当初から「戸田の深海魚と音楽を組み合わせたまちおこしができないか」と考えていたという北川さん。この料理店から体長約140センチのタカアシガニを譲り受け、2週間かけて最初のタカアシガニリドゥを完成させた。

 7月末に自身が開催する英会話教室で披露したところ、反応もよく、その後、県内のテレビ番組などで取り上げられることに。11月には戸田観光協会の要請を受け、戸田を修学旅行で訪れていた浜松市の小学生の前で演奏するなど、新たな観光の目玉として人気を集めつつある。

 同月には体長約3メートルの巨大なタカアシガニを使った2作目のタカアシガニリドゥも完成。同楽器を戸田のPR楽器としてさらにアピールしていきたい考えで、今後の目標を尋ねると、CMで華麗なサックス演奏を披露して話題となったタレントのさかなクンと「いつかコラボしてみたいですね」との答えが返ってきた。

配信2017.12.5 19:15
産経ニュース
http://www.sankei.com/life/news/171205/lif1712050053-n1.html