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安倍首相は、「女性の活躍は成長戦略の中核をなす」と打ち上げ、大きな効果を見込んでいるが、
女性の労働力増加の正の側面だけ捉え、その「負の側面」を“全く考慮に入れていない”のである。

    あたかも、「女性の労働人口増」が、単純に「移民の増加」のように、
    “天から降ってくる労働者”として扱われているが、実際にはそうではない。
   
    そこでは、『専業主婦』は日中、何もせずに寝ているか単純に遊んでいる人として扱われているが、
    しかし、現実には日本の『専業主婦』はそのような“遊休資源”ではない。
   

    “専業主婦”の多くは、「家事」や「買い物」、「育児」や「介護」、「社会貢献活動」など、
    市場で賃金が得られる労働ではないが、立派に「生産活動に従事」しているのである。
   
   その経済価値は、内閣府が纏めた「平成25年度男女共同参画白書」によれば、110.7兆円にも達する。
   (家事77.5兆円、育児11.7兆円、介護2.4兆円、買い物17.1兆円、社会活動2.0兆円)
   ざっと、“GDPの4分の1近く”に達する“大きな金額”である。


女性が「家事生産」に従事できなくなれば“外部”の「家事・育児代行サービス」の購入を選ばなければならない。
これは定義上、必ずGDPを増加させる。なぜならば、専業主婦が行っていた家事・育児は市場で取引されない為、
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統計上GDPに含まれないのに対し、家事・育児代行は全て市場で取引される為、GDPにカウントされるからである。
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これは単にGDPという統計が、家事生産を含まないという「技術的な問題」を抱えている事に原因があるからで、
実 際 に 家 計 や マ ク ロ 経 済 が 、そ れ だ け “豊 か” に な っ た と 言 う こ と で は な い 。


   また、女性が本格的に就労を行うということであれば、男性の就業時間を大幅に短くせざるを得ない。
   男性への家事育児推進(ワークライフ・バランス)政策で時間を取られ、就業時間が少なくなれば、
   経済的にはその分だけ男性の収入が減少し、一国のレベルでも「GDPが減少」するのである。

        男性の中には、生産性の高い責任のあるポストから外れざるを得なくなったり、
        コース転換や、正社員から非正社員を選択せざるを得ない者もあらわれよう。

     「男性は仕事、女性は家事と育児」という性別の役割分担の方が、経済学の観点からみれば、
     『比較優位』の原則にかなっており、“経済合理的”であると考えられる(平均的に見た場合)。


つまり、一般論として、男性の方が仕事の能力が高く(賃金が高く)、女性の方が家事・育児の能力が高い。
男女両方が不得意な分野を中途半端に行うより、其々の得意分野に特化た方が経済的効率性が高い事は自明である。

それに加えて、日本企業はこうした性別の役割分業を前提とした人的管理を行って“生産を最適化”している。
こうした企業等の制度的な仕組みが精緻に築かれるには、長年に亘って膨大な調整コストが投下されてきている。


     性別の役割分担を解消し、女性の活躍を促進する仕組みを築きあげるためには、
     また新たに“膨大な調整コスト”が必要となり、多額の費用と混乱を負担しなければならない。

   にもかかわらず、今回、「多額の補助金」がこの為に予算化され、保育園への補助金を大幅に増額し、
   女性が活躍する企業への助成金制度や税制上の措置も広範囲に行われる予定である。


こうした財政負担に見合うだけの効果が本当にあるかという点は本来、冷静に、そして厳しく問われるべきである。 
女性の活躍促進の為の施策に、財政投入を行う事のコスト・パフォーマンスについては“悲観的”な考えを持たざるをえない。

【『アベノミクス“女性の活躍で経済成長”を真に受けてはいけない』:学習院大学 経済学部教授 鈴木 亘】

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