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この痛みを感じないという現象は危険をはらんでいる。痛みは身体に起きた不調を知らせる重要なサインである。
レティツィアさんも「完全に(痛みが)ゼロというわけではありません。実際には数秒間にわたりわずかですが痛みの認識はあり、これはとても大事なこと」と語っている。
もっとも、一般人が感じる痛みを経験してみたいかと尋ねられれば、レティツィアさんをはじめ全員が首を横に振る。痛みは生活の質を確実に下げるもの。
数奇な運命とはいえ、レティツィアさんは痛みを感じずに済むのであれば人生これほど楽なことはないと考えているそうだ。

ロンドン大学ユニバーシティ・カレッジの主任研究者で、この一族について学術誌『Brain』に論文を発表したジェームズ・コックス博士は、
「皆さんにはすべての神経がちゃんと揃っています。ただ中に機能していないものがあるということ。ZFHX2と呼ばれる遺伝子の変異が共通して確認されています」と語る。
レティツィアさんも彼らの研究に協力しており、同遺伝子を欠損させたマウスを用いた2度の実験では大きな手ごたえをつかんだもよう。
高温に対して鈍感であることもわかったといい、麻酔薬や痛みのケアに新たなる方法の発見につながる予感があると期待を寄せている。

またイタリア・シエナ大学のアナ・マリア・アロイツィ教授は、他の遺伝子との関連性についてもより多くの慎重な研究を行っていけば、慢性的な疼痛症候群について新しい治療法や医薬品の開発がなされるであろうと予想している。