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1月10日 0時02分
成年後見制度を利用した人が一部の職業に就けなくなる「欠格条項」によって警備員の仕事を失った岐阜県の男性が、規定は法の下の平等などを定めた憲法に違反するとして、10日にも国に賠償を求める訴えを起こすことになりました。

成年後見制度は障害や認知症などで判断能力が十分でない人に代わり弁護士や家族などが財産を管理する仕組みですが、制度を利用した人は地方公務員法や建設業法などおよそ180の法律の「欠格条項」によって定められた職業に就けなくなります。

訴えによりますと、岐阜県で警備員の仕事をしていた軽度の知的障害がある30歳の男性は、親族に預金を使い込まれる被害を受け、去年2月、成年後見制度の利用を始めましたが、警備業法には制度の利用者を警備の業務に従事させてはならないとする「欠格条項」があるため、翌月退職を余儀なくされたということです。

男性は欠格条項は障害者に対する差別で、法の下の平等などを定めた憲法に違反しているとして、国に対し損害賠償と警備員として働く権利を認めるよう求めて10日にも岐阜地方裁判所に訴えを起こすことにしています。
男性はNHKの取材に対し、「成年後見制度を利用したとたんになぜ辞めなければならないのか。警備の仕事に戻りたい」と話しています。

国は欠格条項の多くは合理的でないとして、ことし中にも大半を削除する方向で検討していますが、原告の代理人の弁護士は「見直しの議論は進んでいるが欠格条項が違憲と認められれば、同じような理由で退職を迫られたほかの多くの人たちの救済にもつながる」としています。

提訴について警備業法を所管する警察庁は、「まだ訴訟が起こされていない案件に対するコメントは差し控えたい」としています。

国は欠格条項の大半を削除の方向で見直し

欠格条項は成年後見制度が始まった平成11年にそれまでの「禁治産制度」から引き継ぐ形で定められ、当初から国会などで障害者などに対する差別だとして見直しを求める声が上がっていました。

その後、平成25年には東京地方裁判所が成年後見制度を利用すると選挙権を失うという公職選挙法の規定は憲法に違反するという判断を示し法律が改正されて投票ができるようになりました。

しかし、職業や資格については警備業法のほか地方公務員法や医師法などおよそ180の法律で欠格条項が残ったままで、3年前には規定によって仕事を失った元大阪府吹田市の臨時職員の男性が、市を相手取って雇用の継続と損害賠償を求める訴えを起こしています。

内閣府がおととし設置した有識者の委員会では、「成年後見制度の利用は、仕事の能力がないと判断する根拠にはならない」とか、「仕事を失いたくない障害者が制度を利用しなくなってしまう」という指摘が相次ぎ、国はことし中にも欠格条項の大半を削除する方向で法律の見直しを進めています。

「警備員の仕事に戻りたい」

訴えを起こす軽度の知的障害がある岐阜県の30歳の男性はおよそ10年前に警備員の仕事に就き、工事現場や駐車場で交通誘導の仕事などをしてきました。上司や先輩の指導を受けて、次第に一人前の警備員として認められるようになり、自分で生計を立てられるようになったということです。

しかし、親族が無断で男性の名義でローンを組んだり口座から預金を引き出したりしていたことがわかり、裁判所の認定を受けて去年2月から成年後見制度を利用して障害者を支援する団体に財産を管理してもらうことになりました。

男性が勤務先の警備会社に報告したところ、警備業法に成年後見制度の利用者は警備員の業務に従事させてはならないとする「欠格条項」があることを伝えられ、退職を余儀なくされたということです。

男性は「警備員を10年もやっていたので、いろいろなことを学び、人との関わりも増えました。障害があっても仕事ができることは見てもらえばわかると胸を張って言えます。警備員の仕事に戻りたいです」と話していました。