イスラム教徒の遺体を受け入れている別府市のカトリック墓地。「宗派は関係ない。同じ人間として良心的なことをしたい」とプッポ神父は話す=大分県別府市
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 九州のイスラム教徒が「死後の行き場がない」と悲鳴を上げている。イスラム教の葬儀は火葬を禁止し、土葬を用いることから墓地開設の理解が得られにくく、九州にはイスラム専用の墓地はゼロ。協力姿勢を示す自治体もあるが、実現のめどは立っていない。イスラム教徒たちは「今後も日本に住む仲間は増えると思う。本当に切実な問題」と訴えている。

 大分県別府市浜脇の山中にあるカトリック墓地。カトリック教徒の墓が約300区画ある中、16区画は名前を刻んだ石版だけが地面に置いてある。「この土の中にイスラムの人たちが眠っています」。カトリック別府教会のプッポ・オランド神父(76)は言う。

 空き区画でイスラム教徒を受け入れ始めたのは7年前。当時、同市に住むイスラム教徒の子どもが亡くなり、親は「土葬可能な墓がない」と困り果てた。埋葬できず遺体を冷蔵庫に保管するしかない状況に、教会が手を差し伸べた。以来、九州で唯一イスラム教徒の受け入れ墓地となり、福岡や宮崎、鹿児島からも頼まれるようになった。

 とはいえ、この墓地もイスラム教徒専用ではない。「受け入れられるのは多くてあと10人…」とプッポ神父。日本イスラーム文化センター(東京)によると、北海道や関東、静岡、山梨などには専用の墓地があるが、神戸市以西にはない。

 イスラム教徒の施設・福岡マスジド(福岡市東区)によると、墓地建設にはハードルがあるという。

 墓地埋葬法は土葬自体を禁じていない。具体的な墓地の開設要件は許可権者である都道府県や市町村が条例で規定する。条例では住宅街や河川からの距離を定め、地元の理解を求める。九州のある自治体の担当者は「ペット霊園でも反対が起きるのに、なじみのない土葬は相当な反発が予想される」。栃木県足利市では8年前、イスラム墓地の建設計画に住民の反対運動が起き、市は許可を出さなかった。土葬への抵抗感や偏見が背景にあったとみられる。

 イスラム教徒のカーン・ムハマド・タヒルさん(50)=別府市=は「誰かが亡くなっても、その人のために何もできない」と嘆く。埋葬できず、飛行機で自国へ遺体を持ち帰る人もいるという。

 日本ムスリム協会(東京)によると、国内に住むイスラム教徒は約21万人。300〜400人ほど住んでいるとみられる別府市は「多文化共生の観点から解決しないといけない問題だ」として土地探しに協力している。今のところ、住宅街からの距離などが要件を満たさず、具体化には至っていない。

 カーンさんは「住民の迷惑になるなら人里離れた山奥でもいい。土地があれば、もちろんお金を用意して購入する。とにかく九州に墓地が必要です」と話している。

【ワードBOX】イスラム教の葬儀

 イスラム教では神だけが人間を罰するときに火を使うとされている。さらに死者の復活が信じられており、死によっていったん離れた魂が再び戻るための肉体が必要との理由から火葬を禁じている。深さ1・5メートル前後の墓穴に、ひつぎから出された遺体は布で包まれたままあおむけに置かれ、顔は必ず聖地メッカの方角へ向かなければならない。

=2018/01/12付 西日本新聞朝刊=

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