(前略)小浜さんは形質人類学の立場から日本列島の、東と西に住む人びとの差異をいろいろな
角度から指摘されておられます。その中で私(網野善彦)がもっともショックを受けたのは、朝鮮
半島人と、近畿、瀬戸内海沿岸の人びととがきわめてよく似ており、形質上は同じであると指摘さ
れている点です。そしてそれに対して、山陰・北陸と東北の人びとと近畿人との差異は、朝鮮半島
人と近畿人との違いに比べて、はるかに大きく、東北、北陸の人びとはむしろアイヌに近いと小
浜さんは強調しておられます。これは頭部の特性、短頭、中頭、長頭をはじめ、身体的な特質から
導き出された結論ですが、さらに衝撃的だったのは小浜さんの、被差別部落に踏み込んだ発言でし
た。小浜さんは大阪大学の方ですから、ここまで立ち入っておられるのですが、この論文の書かれ
た時期には、被差別部落民は朝鮮半島から渡ってきた人たちだというとらえ方をする人たちが、関
西では少なからずあったと思います。これに対して、小浜さんはとんでもない誤りで、むしろ部落
を差別している人びとの方が朝鮮半島人にそっくりで、差別されている被差別部落の人びとは、
東日本人、東北北陸型の人びととむしろ形質上はよく似ているとされています。小浜さんは被差別
部落の人びとが朝鮮半島からきたなどということはまったくの誤りだと強調されているのです。
(網野善彦『宮本常一『忘れられた日本人』を読む』(岩波現代文庫,2013)137-138頁)