冬の味覚・フグの消費量が日本一といわれる大阪府で今春、フグ提供に関する規制が緩和される。調理・販売などに許可制を取る大阪府の条例が改正されるためで、肝などの有毒部位を処理すれば、許可を得た専門店ではない一般の飲食店で、てっさやてっちりの食材としての提供が可能になる。居酒屋や回転すしに並ぶことも想定され、“高級食材”が身近に。市場拡大が期待され、業界関係者も「大阪のフグ文化が広がる」と注目している。(有年由貴子)

■他地域より厳しい大阪の規制

 強い毒性のあるフグの提供は、食品衛生法で原則禁止とされ、実態としては都道府県ごとに条例を定めるなどして規制している。大阪府では、飲食店やスーパーで食材としてフグを提供する場合、肝や卵巣などの有毒部位の除去処理のほか、処理したフグの調理や加工、販売にも許可が必要。フグの取り扱いの講習を受けた登録者を1人置かなければならず、こうした規制には「他地域と比べ厳しい」(大阪府市の有識者会議)との指摘もある。

 ただ、通信販売でフグの切り身などが手軽に入手できるようになっている現状などを踏まえ、大阪府は平成30年4月に規制を緩和した改正条例を施行することにした。改正条例によると、有毒部位の除去やヒレの切り離しなどの処理には許可を求めるものの、処理された切り身などの調理、加工、販売の許可制を廃止。講習を受けた登録者の配置も求めない。

■居酒屋、回転ずし、コンビニでも取り扱い増の可能性

 改正によって、一般の居酒屋や回転すし店、コンビニエンスストアなどの小規模販売店で取り扱いが大幅に増える可能性がある。東京都も平成24年に全国一厳しいとされた規制を緩和した際、フグの流通量が増えたとされる。フグの水揚げ量が全国トップクラスの石川県の「能登ふぐ事業協同組合」(同県七尾市)の杉原省理事長は「大阪でも期待できそうだ」と話す。

 業界関係者も強い関心を示す。北九州市でフグ料理の通信販売を手掛ける「ふく太郎本部」は2月に大阪市で開催する展示商談会でのPRを強化する。古川幸弘社長(50)は「洋食や中華など、幅広いジャンルの店舗に向けて商品を提案したい」。大阪や東京など全国で約90店舗を展開するフグ料理専門店「玄品ふぐ」の営業担当者も「フグが身近になり、大阪のフグ文化が広がる。相乗効果で、専門店の需要も増えるはずだ」と期待している。

■全国の6割占める大阪のフグ消費量

 農林水産省の漁業・養殖業生産統計によると、平成28年の天然フグの漁獲量は全国で4979トン、養殖フグの収穫量は3491トン。全国の消費量のうち6割を占めるといわれる大阪府で現在、フグを取り扱える登録者は約10万7千人で、許可を得ている店は約7500に上る。

 府立環境農林水産総合研究所などによると、大阪湾は昭和30年代ごろまではフグの好漁場だった。隣県の和歌山などで柑橘(かんきつ)類の生産が盛んで、良質なポン酢も手に入りやすく、フグ料理文化が花開いたという。

 懸念されるのは毒の残ったフグが流通する可能性だ。厚生労働省によると、平成19年から10年間でフグの食中毒で死亡した人は9人。ただ、有毒部位つきフグの消費者への販売は食品衛生法で規制され、今回の改正後も有毒部位の処理には従来通り許可が必要で、府は安全性は担保されるとみている。

 同府岸和田市の「ふぐ博物館」館長でフグ研究の第一人者、北濱喜一さん(89)は規制緩和について「フグ食文化が活性化し、食の都が盛り上がる」と歓迎。フグ毒に詳しい長崎大の荒川修教授(水産食品衛生学)は「近年のフグの食中毒は自分で釣ってさばいたものを食べるなどのケースがほとんどで、有資格者が正式なやり方で提供していれば事故は起きない」としている。

配信2018.1.15 16:45更新
産経WEST
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