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■気分が良すぎる2列目シート

 試乗した中でも、後部座席の作り込みにうならされたのは、最上級グレード「エグゼクティブラウンジ」だ。2列目シートの快適性を高めた法人オーナーを想定したVIP向け仕様。後輪をモーターで駆動するハイブリッドモデルは、税込み750万円超となる。ひじ掛け付きでゆったりした2座の2列目シートが、飛行機のファーストクラスに匹敵する豪華な作りになっている。フル電動でゆっくりとリクライニングするが、今回の一部改良ではあえて、手動で瞬時に折りたたんでスライドできるようにした。要人を2列目に乗せた秘書や付き人が、空いているほうの2列目を即座に折りたたんで自ら3列目に乗り込めるように配慮した。「自分が乗り込むまでオーナーを待たせて、イライラさせたくない」という声が多く寄せられたからだという。そんな、同情を禁じ得ない秘書たちの要望を聞き入れ、細かい改善を怠らないのも、このクルマが支持される理由なのだろう。

 実際にエグゼクティブラウンジの2列目シートに乗ってみると、外界の景色が違って見えてくる。もともと着座位置が高い運転席よりも2列目シートの位置をさらに高くする「ひな壇レイアウト」を採用。「風景の見晴らしがよくなり、乗る人に優越感も感じてもらえる」効果を狙ったという。行き交うクルマや歩行者を見下ろせるのは新鮮だ。本革張りのシートは前後のスライドもたっぷりで、思いっきり後ろに引いてのけぞるぐらいリクライニングさせてオットマンに足を乗せる。成功した自分を夢想して「俺もついにここまで来たか……」とうそぶいてみたくなった。

 首都高を高速巡航しても、徹底した静音設計のおかげで風切り音が気になる程度。その風切り音も、主な発生源の一つであるドアミラーの形状を変更するこだわりぶりで、一部改良前より低く抑えたという。ちょうど2列目シートの試乗中に携帯電話で同僚記者と事務連絡の会話をしたが、音声が聞こえにくくなることは皆無。心なしか口調も偉そうになってしまいそうになる。

 試乗日は凍えるような寒さだったが、座面の温熱機能で体は暖かい。ほかにも天井のフリップダウンモニターや空調など、2列目シートに座りながら手元の操作パネルであらゆる調整が可能。特に驚いたのは、天井の両サイドに配置された帯状のイルミネーションだ。カラーLEDが使われ、16色のうち好きな色に点灯させることができる。どんな使い道があるのか気になるところだが、実際にブルーやピンクに点灯させると、色によって車内の雰囲気は怪しく変化する。まるで「十徳ナイフ」のように多彩な機能を詰め込んだ車内空間には感嘆するほかなかった。

■なぜそんなに威圧的なのか

 この出来栄えで、2.5リッター4気筒の廉価モデルが税込み330万円台からという価格はバーゲンプライスと言ってよい。快適性を重視してコストパフォーマンスを考えたら、このクルマより狭くて高価な「レクサス」車をわざわざ買う理由がない。結果的に、アルヴェルが売れれば売れるほど自社の高級セダンは売れなくなるわけで、双方のブランディングに苦心するトヨタの苦労がしのばれる。

 そんな、上級ブランドをのみ込む勢いの新型アルファードのキャッチコピーは「大胆に、前へ」。そしてヴェルファイアは「圧倒するか、圧倒されるか」。それにしても、どうしてクルマがそこまで他者に対して身構えて威圧的でないといけないのか。高級外車も軽トラックも横断歩道を渡る児童や高齢者も、路上ではみな同じ交通社会の一員。街中で多く目にする売れ筋のミニバンなだけに、車内の乗員に優しいのと同じように、車外の人や街にも優しくあってほしい気がする。(北林慎也、信原一貴)

おわり